高校野球の地方大会が各地でスタートしている。先週末、京セラドーム大阪であった北大阪、南大阪大会の合同開会式をのぞいてきた。思いの外、面白かったのが橋下徹知事のあいさつだ。弁護士、タレント、そして政治家となった人だから、スピーチがうまいのは当然だろう。しかし、今回のあいさつは、そんな立場を離れた「スポーツ人」の言葉に聞こえてきた。 「青春してますね。青春、青春。そして、君たちは何といっても汗臭い」。そんな導入で始まったあいさつだが、話はすぐに本論に入った。 「みなさん、毎日の練習でつまらない、しょうもないと思っていることがあるでしょ。いつも同じことばかり言われて。でも、あれが一番大切なんです」と切り出した橋下知事は、ラガーマンだった自分の高校時代を語り始めた。20年前、大阪・北野の一員として花園に出場した時のエピソードだ。 1988年の元旦。第67回全国高校ラグビー大会の3回戦である。北野は屈指の強豪、京都・伏見工を相手に健闘し、同点のまま試合は終了直前となる。そこで伏見工がペナルティを得るのだが、伏見工がPGを蹴ると思った一瞬、橋下選手をはじめ北野フィフティーンはボールから目を切った。その隙を突き、伏見工は薬師寺大輔選手(のちに神戸製鋼)がチョン蹴りからボールを抱えて一気にインゴールに飛び込む。決勝のトライが決まって16−12。北野は敗れ去った。 橋下知事は今もそのシーンが忘れられないという。「ぼくは中学、高校と6年間、ラグビーをやっていました。それで毎日毎日、『ボールから目を離すな』と言われ続けてきたんです。ところが、高校生活最後の大会の一番大事な場面でボールから目を離してしまった」。悔いの残る場面を振り返りながら、地道な積み重ねの大切さを球児たちに語りかけた。「この気持ちの高ぶりは今の年齢でしか味わえない。大人になって、いくらカネを払っても経験できない。汗臭い、この時期だけです」。 なかなかエネルギッシュな話しぶりだったが、スポーツを肌で知る人の体験話は、グラウンドにぎっしりと並んだ185校、3000人を超える球児たちを十分に引きつけているようだった。
大阪府の財政再建をめぐり、各方面と摩擦を繰り返している橋下知事。大阪府立体育会館やスケートリンクのある臨海スポーツセンターなどのスポーツ施設にも、例外なく抜本的な運営見直しを迫っている。スポーツ人としての経験が、政治にどう生かされているのか、今のところはよく分からない。冷酷なコストカットも今は必要なのだろう。しかし、球児に語った話のように、人間味に満ちた、汗臭い行政手腕も見てみたいものだ。 |