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vol.417-2(2008年9月26日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
麻生太郎新首相とスポーツ界

 自民党の総裁に麻生太郎氏が選ばれ、内閣総理大臣に就任した。森喜朗元首相とともにスポーツ界に強い影響力を誇ってきた大物政治家である。その麻生氏が国家権力のトップの座に就いたことでスポーツ界にどんな変化が起きるのか。今後、注意深く観察する必要はある。

 麻生氏のことを調べていたら、インターネットの動画サイトに、麻生氏とスポーツ界との密接な関係を示す映像が現れた。北京五輪閉幕から4日経った8月28日、自民党の会合「スポーツ立国調査会」の席上で撮影されたものだ。

 「メダルはアテネに比べ少ないという声もあるが、上位入賞者は私の記憶ではアテネと同じ。若い人の比率が高く、次回につながる成績だ。これもナ ショナルトレーニングセンターをはじめとする施策の効果があったものと思われる。さらなる効果が出るよう、文部科学省と平成21年度の概算要求でも説明す る。そういったものが結果として生かされるよう期待したい」

 調査会の会長を務める麻生氏のあいさつの一部である。映像を見ると、麻生氏の横には日本オリンピック委員会(JOC)の福田富昭・選手強化本 部長、柔道の男子66`級で金メダルを獲得した内柴正人が座り、映像には見えないが、JOCの竹田恒和会長も同席していたようだ。あいさつの最後に予算の 話をしている部分が非常に興味深い。

 別の映像もあった。昨年、発足したばかりの調査会で、会長に就任した麻生氏はこうあいさつしている。

 「スポーツと名のつく調査会は、自民党では過去に例がない。ちなみにスポーツ担当大臣というのは過去に1人だけいた。知ってる人いますか?(反応が少なく)その程度のもんでしょう。3年前、私が総務大臣だった時に兼スポーツ担当大臣だったんです」

 調査会は国内の競技団体を管轄するスポーツ庁(省)の設立を目指しており、その中心人物の一人が麻生氏である。スポーツ界への予算を一手に握る 専門の省庁が発足すれば、国家の関与はさらに強まるに違いない。一方、今のスポーツ界もナショナルトレーニングセンターなど施設整備の面で国家への依存度 を高めている。

 麻生氏はクレー射撃の選手として1976年モントリオール五輪に出場した経歴を持つ。さらに現在は日本クレー射撃協会と日本バスケットボール協会の会長を務め、競技団体の内部にも入り込んでいる。

 総選挙も含め、今後の政界の動きはまだ読めない。しかし、麻生氏が政権を握り続ければ、五輪出場経験のあるオリンピアンの首相として、2016 年東京五輪招致でも積極的な動きを見せるだろう。来年9月には開催地を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会がコペンハーゲンで開かれる。最近は国 家元首がIOC総会に乗り込んで政府の積極支援をアピールすることが当然のようになってきた。日本も同様、その流れに乗るはずだ。

 政治の接近が日増しに露骨になっている。しかし、その危険性を指摘する声はスポーツ界からはまだ聞こえてこない。政治の圧力に屈した過去の歴史が忘れ去られたわけではないだろうが・・・。

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