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vol.427-3(2008年12月5日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
スポーツ界は無抵抗のままか

 Jリーグのクラブが選手を大量解雇する動きが相次いでいる。シーズンも終盤に入り、来季の戦力を再整備する時期でもある。しかし、今年はいつになく、契約を打ち切られた選手が多いようだ。Jリーグの経営に何が起きているのか、日本スポーツの根幹に何か変化が生じているのか。

 J1の東京ウェルディが11人を解雇したのをはじめ、J2の徳島、岐阜もそれぞれ15人との契約を更新しなかった。岐阜にはレギュラー選手も含まれている。J2への降格が決まっている札幌も10人に戦力外通告を行った。

 チームの若返りなどを理由に挙げているクラブもあるが、本音は人件費の圧縮にあることは間違いない。スポーツ紙では金融危機と関連付けた記事も多く、直接的ではないとはいえ、世界同時不況の影響がじわじわと現れている可能性は否定できない。スコットランドでプレーする日本代表、中村俊輔が今季限りでセルティックとの契約を終え、古巣の横浜Fマリノスに復帰する見通しだったが、マリノスの資金難で獲得は見送られたという。一部には親会社である日産自動車の経営悪化が影響しているとの見方もある。

 2007年度のJリーグの経営状況を見ると、前年度に比べ、赤字クラブは15から7に減った。J1クラブの平均営業収入は32億6700万円、J2は11億6300万円。どちらも増収であり、営業収入が30億円以上のクラブもJ1とJ2を合わせて前年度比3クラブ増の11。数字を見れば、各クラブの経営は概ね安定していたはずだ。ところが、この1年で状況は一変した。

 Jリーグの人気が急落したわけでもない。それなのにクラブが選手のリストラに走るのには、経営を不安定にさせる外部要因があると考えた方が妥当だ。スポンサー企業の減少かも知れないし、金融機関の貸し渋りかも知れない。複合的な要因が考えられる。今年度の経営状況が公表されるのはシーズン終了後のことであり、今はまだ実態が明確に浮かび上がってこない。

 これが世界同時不況の影響だとすれば、サッカー界だけの話にはとどまらない。五輪競技でもトップ選手たちの大半は、スポンサーの支援を得て活動する実質的なプロアスリートか、もしくは1年契約で企業の所属となった「契約社員アスリート」である。スポンサー契約などはいつ打ち切られるかも知れず、一般社会のように契約社員の選手はリストラの対象にされやすい。

 Jリーグ選手協会は公式ホームページの「契約制度」の欄で「日本のプロサッカー界はまだ発展の途中であり、完全自由化によってクラブチームの財源を圧迫するあまり、解散の危機が訪れるような結果も想定されます。そのことは、自分たちの職場を小さくしてしまうことにも繋がりますので、お互いに協調しながら進めていこうとは考えています」と記している。

 「協調」の言葉が証明するように、プロ野球のような労働組合ではなく、最低年俸制度もない。また、他のスポーツも、選手の多くは経営側の論理に対して抵抗の手段を持っていないのが現状だ。経済が急激に変動し始めた今、スポーツ界は大きな危険にさらされている。

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