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vol.433-1(2009年1月20日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
イチロー選手の新春トーク(2)

 前回紹介したイチロー語録の中で「自分に勝つだけではダメで、他人にも勝つことが必要だ」という言葉は、イチロー選手の面目躍如たるものだ。「自分のベストをつくせたらそれでいい」と考えるのはアマチュアで、「自分に勝ち、他人に勝つ」のがプロフェッショナルだ。真のプロの心意気とはそういうものだ、と言うわけである。

 それにつづけて、こんなことも語った。
「自分と闘い、他人とも闘う。チームメイトと火花を散らすような闘いがあってもいい。それがプロフェッショナルだ。人間、チームが強くないとき、弱くても仕方がないか、と考えてしまうことがある。それが進んでいくと、弱いなら、悪いなら、みんなで悪くなろうと、となってしまう。みんなで悪くなることがチームワークだ、と考えてしまう。それは最悪の事態だ。今のマリナーズがダメなところは、そこだ。みんなで悪くなる方向に進もうとする力に、徹底的に抵抗するのは大変なことだ」

 人間の性質の中に、弱いところ、悪いところに足並みをそろえてしまう、という傾向があることを、イチローは指摘するのだ。

 「メジャーの競争はきびしい。マイナーからメジャーへ上がるのは大変だ。だから上がってしまうと、自分が偉くなった、と思い込む。これが厄介なところだ。一方、日本人はいくら成績が一番になっても、ほんとうに一番なのか、もっとスゴイのがいるのではないか、と考える。あちらでは一番になったら、単純に一番だと信じこむ。これは日本人には理解できないところだ。日本人は見えないものまで見ようとする。表面的なものだけを見るのではないところは、あちらの人から見ると、日本人の気持ち悪さでもあろうが、ぼくはそれを生かして行きたい」

 「重大な決断をしなければならないとき、たとえばアメリカに渡るかどうかというような人生の重大事を決断しなければならないとき、3日3晩寝ないで考えて考えて、やっとこの決断ができた、という人がいるが、ぼくはそんなのは大嫌いだ。重大な決断をしなければならないときは、いつもよりよく寝て、太陽の光のあたる暖かいところで、物事を考えるのが正しいやり方だと思う」

 インタビューアーに「年間262安打とか、8年連続200本安打とか、大記録を達成した気分は?」と訊かれて、「達成感、満足感はたしかにあったが、もう過ぎ去ったこと。そこでストップするわけにはいかない。でも、何かを達成したその都度、その都度は十分に満足している。満足することが、次の成長につながる。あまり自分をきびしく律するのは危険だ」「たとえば、今5−0の自分がいて、5−5の最高の状態のVTRを見ているのがいいかどうか。最低の自分が最高の自分とくらべると、落差がありすぎる。4−1か、5−1の時のVTRを見た方がいい。その方が自分が楽になる。自分を楽な方にもっていってやることも大事だ」

 「目の前にある小さいことのつみ重ねがあって、はじめていろんなことができる」

 「この8年間、進歩もあれば退歩もあった。数字でごまかしている部分もある」

 「昨シーズンはつねに楽しいわけではなかった。いろんな記録、目標が間近に迫ってくると、絶対とりたい、やらなくてはいけない、という気持ちが強くなる。あと20本で200安打という時点、あと20試合残っているのだから、ふつうにやっていれば1試合1安打は楽なはずなのに、やらなくてはいけない、という気持がものすごく自分を縛る。その精神的圧迫が肉体的に影響する。それが苦しかった」

 隠さず、飾らず、正直に話して人にいろいろ考えさせるイチローは、素晴らしいスピーカーである。野球人の中にも「不易流動」がある。変わらない心とそのときどきで変わる気分。その絶妙なバランスの中に、野球人イチローがいる。

 「昨今の世の中を見ていると、むずかしい時代になってきたが、とりあえず笑ってやっていきましょう」と、トークを結んだ。

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