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vol.435-1(2009年2月3日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
スポーツと詩歌

 スポーツを詩歌によむのはなかなかむずかしいことだが、新聞の読者投稿俳句・短歌欄には、ときどき面白い作品が載る。たとえば1月26日付朝日新聞に―
・美しく正しい振りに近づかむ夜の打ち初めの九番アイアン(吹田市・豊英二)
 教本通りの正しいスイングを目指して、夜、黙々とクラブを振るこの几帳面さ、生真面目さ。典型的な日本人像、と思わせるものがある。日常生活、仕事も、この人はこのようにキチンと折り目正しくしているのだろうな、と、つい余計なことまで想像させて楽しい。

・ラグビーのボールに宿る天邪鬼(愛知県・北出風出)
 なるほど、ラグビーの楕円球の中には、アマノジャクが宿っているのか。だから転がるボールを捕まえようとしても、右に左に、前に後ろにと不規則バウンドするわけだ、と思わずニヤリとしてしまう。肉弾戦だけでなく、意地悪なアマノジャクを相手にしなければならないから、選手たちも大変だ。

・復興の山古志村で走り込みし子ら箱根路をひたむきに駆ける(埼玉県・中里史子)
 選者の高野公彦さんの評に「歌の脚注に〔東洋大〕とある。優勝したチームが、あの被災地(新潟県中越地震)で練習したとは以外」とある。私も驚いた。今年の東洋大には、柏原竜二というスーパールーキーが出現した。2年前、箱根駅伝の5区、最難関の山登りで、韋駄天ぶりを見せた今井正人選手(当時・順天堂大)の記録を、いっきに47秒も短縮する区間新を出した。9位でタスキを受け取ると、首位と4分58秒もの大差を、見る見るゴボウ抜きしてトップでゴール、東洋大優勝の原動力となった活躍ぶりは、まだ目に焼きついている。

 その東洋大が大地震で壊滅的な打撃をこうむった新潟県の山古志村で、駅伝の合宿をしたとは初耳だった。粋なことをやるものだ。コーチ選手などの関係者の中に、山古志村に知り合いがいたのか、どんな事情があったのか分からないが、この合宿は山古志村の人たちをどれほど力づけたことだろう。また、選手たちも、喜んでくれる村民の顔を見て、いっそうファイトをかきたてたことだろう。思わぬスポーツの効用というものだ。スポーツの練習合宿がこういう"社会性"をもってくると、スポーツの可能性がさらに広がるような気がして、うれしくなる。

 2月1日付朝日新聞の社会面に、「延長18回漢詩にのせて 魚津OBら歌い継ぐ 50年前の甲子園 村椿対坂東」という記事が、かなり大きい扱いで載った。昭和33年夏の甲子園野球準々決勝で、徳島商・坂東英二投手と、魚津高・村椿輝雄投手が投げ合い、0−0で延長18回引分け、再試合となった。再試合で魚津高は敗れたが、両校の熱戦を七言律詩にした人があり、それを詩吟として今も歌いつがれている、という記事だ。私もこの試合は記憶している。球史に残る熱戦だった。

 好投能制敵村椿 好投よく敵を制す村椿
 必殺剛球彼坂東 必殺の剛球彼坂東
 鳴尾甲園斗志漲 鳴尾の甲園に闘志みなぎり
 白球飛箭挑蒼穹 白球飛箭して蒼穹(青空)に挑む
 縦横快技守塁美 縦横の快技守塁の美
 十万喊声呼熱風 十万の喊声熱風を呼ぶ
 傾尽精魂回十八 精魂を傾け尽して回十八
 健児名聞永無窮 健児の名聞とこしなえに窮まりなし

 第3句と4句、5句と6句が対句になっていないというキズはあるが、韻はしゃんと踏んである。50年も前の熱戦が漢詩に作られ、詩吟として長く歌いつがれているのはスゴイことだ。

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