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vol.441-1(2009年3月25日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
WBCは楽しかった!

 珍しく丸々1試合、WBC決勝戦のテレビ観戦につきあった妻が、見終って、ひとこと感想を洩らした。「イチローのふだんの顔は仙人みたいだけど、今日は少年の顔になったわね」。たしかに、年齢による限界説まで飛び出すほど不振をきわめたイチローが、最後の最後、2点決勝打を放って千両役者ぶりを見せ、そのあとのシャンパン祝賀会でもはじけるような笑顔をふりまいた姿を見ていると、「スポーツは少年を大人にし、大人を少年にする」という言葉を思い出し、これは本物だ、と実感した。

 第2回WBCは結果的に韓国戦を5回見るという、やや偏った大会、という気もしないではないが、負けた試合も含めて、両者の対戦に飽きることはなかった。とにかく日韓両国とも、これがアジア人の本質だ、と言いたいくらいの真面目さをぶつけあったから、まことに見応えのあるものだった。日本がスモールベースボールとすれば、アメリカやベネゼイラはビッグベースボール、韓国はミドルベースボールであろうか。日本以上に長打力を秘めているようで、いつ一発が飛び出すかとハラハラさせられた。いつの日か、日本、韓国に加えて、台湾、中国、あるいはオーストラリアも含めて、アジアリーグが出来て、ますます野球が発展するのではないか、と期待したくなる。この4〜5ヶ国なら時差の問題もなく、アメリカより移動も簡単だ。ぜひ、その方向に進んでもらいたいものだ。

 WBCの試合を見ながら、私は正岡子規の短歌を思い出していた。「いまやかの三つのベースに人満ちてそぞろに胸のうち騒ぐかな」。こんなに手に汗を握り、胸の高鳴りを感じることができたのは、本当に珍しく、それは試合に出た選手1人ひとりが、必ず1度は見せ場を作ったことだろう。短期決戦の試合では、ラッキーボーイが出た方が勝つ、とよく言われるが、今回の日本は、まんべんなく出場選手が活躍したように思う。投手も打者もそうだった。カヤの外にいた者は1人もいない、という状態だったから、まさに全員一丸野球、というにふさわしく、それで2連覇もできたのだ。こんなことは珍しい。

 今年の元旦の新聞に、美智子皇后の短歌が載った。「たはやすく勝利の言葉いでずして『なんもいへぬ』と言ふを肯(うべな)う」。2種目金メダルの水泳・北島康介選手のことがうたわれている。スポーツ好きの皇后だから、あるいは今回のWBCの日本チームのことも、やがて歌の題材にされるのではないか、と期待してしまう。

 それにしても、イチローのコメントは相変わらず面白い。

 「今回は苦しさが痛みになり、痛みから心が折れそうになったけれど、最後は神が降りてきてくれましたね」―こんなふうに的確に自分の気持を表現できることに驚く。スポーツに「たられば」は禁句だが、WBCを見ながらONの全盛期にWBCがあったらどうだったろうか、と思わず考えてしまう。全盛期の大鵬と名横綱双葉山と、どっちが強いだろう、ととりとめもなく想像するようなものだ。現実のプレーやゲームに、過去の記憶を重ね合わせて、もう一つの幻を見る楽しみがもてるのは、スポーツファンの特権というものだろう。

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