正月の箱根駅伝はテレビで観戦した。東洋大の初優勝や外国人選手のゴボウ抜きには感嘆したが、レース内容以上に驚きを覚えたのはテレビ視聴の形態の変化だ。 昨秋、引っ越しを機にテレビを買い替え、我が家でも地デジ(地上波デジタル放送)を見られるようになった。映像が鮮明になり、チャンネル数も増えたが、面白い番組が少なく、さほど便利になったと感じることはなかった。 ところが、箱根駅伝中継を見ながら、リモコンの「d」というボタンを押した瞬間、レース映像の下と横には詳細なるデータが映し出された。もし取材に行っていれば、レース途中のプレスルームで配布される資料のような内容である。 チェックポイントごとの総合順位や個人順位、メンバー名が掲載された出場校紹介、区間最高記録、歴代優勝校など。視聴者からの応援メッセージも表示された。我々メディアは順位やタイムをプレスルームで細かくチェックし、レースが終わると取材に走る。しかし、地デジでは、そうしたデータが一般視聴者にリアルタイムに提供されている。 ラグビーの取材があったため、箱根駅伝を自宅で観戦したのは午前中だけだった。ところが、出先で携帯電話のワンセグ放送にアクセスすると、テレビと同じ詳細データが見られた。これも驚きだった。 放送した日本テレビによると、地デジとワンセグによる箱根駅伝でのデータ放送が始まったのは07年の第83回大会からという。11年7月にはアナログ放送は全面終了し、地デジに完全移行されるが、今後、スポーツファンの観戦形態は従来とは異なってくるのではないか。 視聴者は映像と文字から同時にスポーツを取り込み、消化していくようになる。今までファンは映像と文字を違う時間帯で「処理」していた。テレビで生中継を楽しみ、インターネットや翌朝の新聞でその試合の詳細や背景を読み返す。そこに、映像メディアと活字メディア(インターネットを含む)のすみ分けがあった。 私のような活字側の人間は、映像では得られない情報を伝えていくことが仕事だと考えてきた。その一つとして、データは記録性のある新聞や雑誌の得意とする分野だった。だが、「放送と通信の融合」によって、そうした仕事はデジタル放送に取って代わられようとしており、将来はもっと詳しい文字情報が付加されていくだろう。 さて、しかしだ。スポーツファンに映像とデータを提供するだけで報道の役割はおしまいだろうか。そんなわけはない。スポーツにはもっと多角的に光を当てることができ、いろんな魅力や伝えるべきことがある。 特に活字メディアは今後、何をテレビに任せ、何を重点的に伝えるかを取捨選択していかなければならない。新しい時代のスポーツ報道を模索すべき時ではないか。新年早々、そんな思いを強くした。 |