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vol.433-2(2008年1月23日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
体力テストの「千葉1位」に注目したい

 文部科学省が全国の小学5年生と中学2年生を対象に一斉実施した初の全国体力テスト(全国体力・運動能力、運動習慣調査)の結果が公表された。学力テストと同様、成果主義や競争主義を助長するのではないか、との批判もあるが、調査結果には、やはりスポーツの将来を考える上で興味深いヒントがちりばめられている。

 浮かび上がってきた特徴は以下のようなものだ。
 @女子の運動不足が顕著となり、1週間の運動量が60分未満なのは中2女子で3割。
 A一方、毎日1時間以上運動する児童生徒は男子で小5が6割、中2が8割。運動する子どもとしない子どもが「二極化」。
 B全国学力テストで上位だった福井と秋田が体力テストでも小5男女で1、2位。
 C都市圏の都道府県が軒並み下位の中、千葉が中2で男女とも1位。

 運動しない女子が多いのは、小学校で女子が行えるスポーツ環境が乏しいという点と関係しているだろう。男子なら少年野球やサッカーチームが地域にあるが、女子が取り組めるスポーツの場は少なく、その結果、中学生になっても運動部活動に入らない傾向があるように思える。

 スポーツをする子どもとしない子どもの「二極化」には、格差社会の影響が表れていないだろうか。部活の衰退が指摘される中、地域のスポーツクラブに入る小中学生は増えている。しかし、地域クラブで活動するにはカネがかかる。塾通いにも費用がかさむ中、スポーツか勉強か、早くから選別する風潮も生じてきているのではないか。

 地域別の順位は今後の研究対象になるだろう。

 学力テストで小中とも45位、体力テストでも下位(小5男子42位、小5女子43位、中2男子42位、中2女子39位)だった大阪府の橋下徹知事は「ふつう、勉強が出来なかったら体育は出来るもの。両方悪かったら、何が残るんだ」と憤慨していたという。

 しかし、福井や秋田では「文武両道」が実践されているようだ。ともに地方ではあるが、勉強にもスポーツにもバランスよく取り組める環境が根付いているに違いない。

 そんな中、千葉の結果(小5男女5位、中2男女1位)に興味をそそられる。都市圏にある他の都道府県の順位を見ると、たいていは40位前後。人口密集地にスポーツをできる環境は少なく、塾通いに忙しくてスポーツをしない子どもが多いのは当然だ。しかし、千葉だけが突出して上位に位置している。

 千葉は昔から野球もサッカーも盛んな土地柄ではある。とはいえ、東京のベッドタウンである神奈川などと比べ、大きな違いがあるようには思えない。

 県教育委員会の発案で昨年度から休み時間などを利用してリレーや連続馬跳びが実施されたり、県の体力調査で好成績を収めた子どもを表彰しているという。もちろん、これだけで子どもの体力がアップするわけではないだろう。しかし、何か組織的に取り組んでいるシステムがあれば、千葉県はそのノウハウや情報を全国のために広めてほしいものだ。

 受験競争が低年齢化し、子どもの遊ぶ場も減少し続けている。スポーツは本来、自発的な活動であるが、放っておいても子どもの体力が向上するという時代ではない。体力テストの結果は都道府県の競争のためではなく、全国のスポーツ環境を整備するための貴重な材料として生かすべきだ。

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