スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.447-1(2009年5月8日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
相次ぐ招致撤退から見えるもの
関連コラム:「カネが鍵を握る」ラグビーW杯招致(vol439-2.09/03/6)

 ラグビーの2015、19年のワールドカップ(W杯)の開催地に立候補するための入札文書提出期限(5月8日)を前に、南半球のラグビー王国、オーストラリアが立候補を断念すると発表した。オーストラリア・ラグビー協会(ARU)が決断したのは文書提出を2日後に控えた6日。開催地は7月28日の国際ラグビー機構(IRB)理事会で決まるが、この招致レースでは、既にスコットランドやアイルランドも撤退を表明している。いったい、巨大イベントをめぐって何が起きているのか。

 オーストラリア協会のホームページでは、撤退の理由をこう説明している。

 「2003年にはオーストラリア各地でワールドカップを成功させることが出来、もう一度開催したいと考えてきたが、(IRBに委託されてW杯開催を取り仕切る)ワールドカップ・リミテッド社から要求された開催保証金を無条件に提供するにはリスクがあるとARUは判断した」

 15年大会には8000万ポンド(約122億円)、19年大会には9600万ポンド(約147億円)の拠出が求められている。それらを準備できる根拠を示さなければ、開催する資格を満たさない。アイルランドはイングランドやウェールズ、スコットランドとの共催を希望したが、4協会で合意に至らなかったという。

 オーストラリア協会はこう続ける。

 「(財政保証が出来ない)不適格者として入札文書を提出するぐらいなら、我々は残念ながら招致から撤退する。とても失望しているが、今後6年間(2015年まで)か10年間(2019年まで)の財政保証に伴う危険を引き受けることが、将来のオーストラリア・ラグビー界にとって最良とは考えない。変動している為替相場と不確実性、そして予測できない世界経済が危険要素として挙げられる」

 同じく両大会に立候補している日本も、やはり開催保証金の工面には苦労している様子だ。「(2011年大会で招致に敗れた)前回は、各国の理事とコミュニケーションを密にしてのロビー活動を展開したが、今回はむしろ、たいへん高額ではあるが、トーナメントフィーという条件をどうクリアしていくかが最大のキーポイントになる。信頼性の高い保証書をどう書くか。政府保証というものは難しく、また他国もどこも取れてはいない」と話していたのは、日本協会の真下昇専務理事である。立候補国のうち、南アフリカは政府による財政保証を取り付けたようだが、ラグビーの大会開催経費を税金で保証する国家がどれだけあるだろうか。

 ラグビーW杯招致をめぐる相次ぐ撤退は、他のスポーツにも波及する恐れがあるだろう。五輪やサッカーW杯をはじめ、国際競技会は巨大化を続けてきた。この拡大を支えてきたのがスポーツを利用したビジネス、いわばスポンサーマネー、テレビマネーだった。しかし、世界的不況によってその根幹は揺らいでおり、将来、巨大イベントの開催を希望する国や都市が激減する危険もある。今回の動きは、まだ序章に過ぎないのではないか。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件