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vol.469-2(2009年12月4日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

予算縮減と成果主義

 国家予算の無駄遣いを洗い出す政府の行政刷新会議の事業仕分けで、スポーツ予算も「縮減」の判定を受け、五輪メダリストたちが共同会見を開いて抗議のアピールを行った。対象となったのは、日本オリンピック委員会(JOC)、日本体育協会、日本武道館の3団体に対する民間スポーツ補助費計32億9200万円だ。これらの中で最も大きな割合を占めるのがJOCの選手強化費27億1400万円。仕分け人たちは、トップ選手の強化がさほど大切だとは思っていないということだ。

 今回の問題でクローズアップされているのは、仕分け人が言った「ボブスレーやリュージュといったマイナー競技に補助する必要はあるのか」という発言である。おそらく、スポーツに理解も知識もあるとは思えない、この仕分け人は「税金を投入するのなら、それに見合う成果が期待できなければならない」という意味で言ったのだろう。日本人のスポーツに対する認識は、その程度のものでしかない。ここに問題の本質があると思う。

 日本オリンピック委員会(JOC)をはじめ、日本のスポーツ界が方向付けてきたのは、紛れもなく「成果主義」である。JOCの補助金は競技団体ランクによって分配される。加盟団体を五輪の成績などによって特A、A、B、C、Dにランク付けし、これに応じて強化費予算を振り分けている。特Aは水泳、レスリング、柔道の3競技であり、ボブスレーやリュージュはCにあたる。今年度、五輪競技から外れることになったソフトボールは特AからCに、野球もAからCに下げられた。

 日本体育協会が主催する国体もそうだ。各競技団競技を順位付けし、下位となった銃剣道、なぎなた、トライアスロン、軟式野球の4競技を「隔年実施競技」と決めた。実施競技は4年ごとに見直されるが、これもまた、競争原理の考えに基づいている。

 JOCが、北京五輪までの1年間に主要各国が投じた強化費を調べたところ、日本とは大きな差があることが分かった。最多はドイツの274億円。27億円だった日本とは10倍もの開きがある。この差を嘆き、現状の苦しさを訴えることは簡単だろう。しかし、「五輪で日本代表が活躍すれば、国民に夢と感動を与え、国を活気づける」という抽象的な論法だけでは、この国家財政の危機の中で予算増額を取り付けることは不可能に違いない。

 仕分け人の一人、蓮舫議員(民主党)が科学技術分野のスーパーコンピューターの開発について、「世界一を目指す理由は何か。2位ではダメなのか」と発言した。これは今回の大切なキーワードである。スポーツに転じてみれば、「なぜ五輪で金メダルを獲る必要があるのか。五輪に参加するだけではダメなのか」ということに通じる。

 税金を投入するに見合う「成果」とは何か。日本のスポーツ界はそれに反論できる答えを持ち合わせているだろうか。本来あるべき「成果」とは、国際舞台で好成績を残すことではなく、スポーツ文化を国民に浸透させ、国民の生活をいかに豊かにできるか、ということだ。現在の成果主義でメジャースポーツ、人気スポーツが優遇され、マイナースポーツが切り捨てられる状況が続けば、それはスポーツの幅を狭め、スポーツの土台をも「縮減」していくことになる。税金とスポーツの関係。その意味を考える機会にしなければならない。

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