1924年にフランス・シャモニーで開かれた第1回から数えて21回目となる冬季五輪がバンクーバーで幕を開ける。史上最多の82カ国・地域が参加し(第1回大会は16)、ウィンタースポーツの世界的な広がりを感じさせるが、それに相反するかのように、浮かび上がってきた大きなテーマがある。冬季五輪は将来も永続的に開催できるのか、という問題だ。
国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は現地での記者会見で「すでに冬季五輪の開催地決定に当たっては、気候、雪の状態に関するデータの提出を求めている」と語ったという。IOCは、地球環境が変動する中で冬季五輪を開催できる場所が将来は限定されてくるのではないか、という懸念を持っているのだろう。これまでなら立候補都市には当然ながら雪があり、スキー競技は問題なく開催できると楽観していたはずだ。だが、そうではない現実が今回のバンクーバーで如実に露呈された。
フリースタイルスキーやスノーボードの会場となる「サイプレスマウンテン」では雪不足のため、早い段階からゲレンデを閉鎖して会場設営が行われた。雪が積もる近隣の山からヘリコプターで雪を運び、その量をかさ上げするために干し草のブロックが敷かれた。また、冬季五輪というのにバンクーバーの街では桜が咲いているという。
同じ北米大陸のワシントンは大雪に見舞われており、バンクーバーの暖冬や雪不足が地球温暖化の影響と断定するのは難しい。とはいえ、4年前のトリノ五輪も雪不足のため人工雪でコースを整備しており、そして今回もまた、という状況である。
カナダは自然に恵まれた国であり、ウィンタースポーツも盛んな土地柄だ。だからこそ、こうした変化に敏感なのかも知れない。昨年の2月にはトリノ五輪のモーグル女子金メダリスト、ジェニファー・ハイルら五輪選手たちが署名を集め、バンクーバー五輪組織委員会に環境対策の充実を求めた。五輪の対策だけで地球の環境が変わるわけではない。しかし、カナダのアスリートたちは何か行動を起こさなければ、ウィンタースポーツそのものが消滅していく、という危機を肌で感じているのではないか。
国内に目を移せば、来年の冬季国体の開催地が決まっておらず、最悪の場合、中止となる可能性も指摘されている。こちらは地方財政への過剰な負担が原因だが、国内でも雪不足がさらに深刻化していけば、開催できる場所は限られ、一部の自治体ばかりに負担を強いることになりかねない。実際、今年の冬季国体を実施している北海道はこの10年で4回目の開催となる。これでは不満が出るのも当然だろう。
バンクーバー五輪からはこうした問題に対して、どんなメッセージが発せられるのだろうか。開会式は日本時間13日の午前11時開始。選手たちの戦う姿に目を奪われる17日間になるのはもちろんだが、その一方で、ウィンタースポーツの在り方や自然とスポーツを考える機会にもしたい。
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