スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.481-1(2010年2月22日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

アメリカの首位は何を意味するのか

 バンクーバー五輪は20日(日本時間21日)でちょうど中間地点を折り返したが、メダル争いでアメリカが首位に立っている。金6、銀7、銅10の計23個=20日時点、以下同。2位につけるドイツの14個(金4、銀6、銅4)を大きく引き離し、独走状態といっていい。

 98年長野五輪から総メダル数のトップを続けているのはドイツだ。一方、アメリカは地元開催の02年ソルトレークシティー、06年トリノで2位。最近、世界を代表するようなアメリカのアスリートが減ってきたような気がしていただけに、今回のアメリカは不振にあえぐのではないかと私は見ていた。リーマンショック後の経済不況の影響が出るだろうとも予測していた。ところが、それとは全く逆の展開になっている。

 同じ北米大陸の五輪だからコンディション調整がうまくいった、という単純な見方はできない。ここ数回の五輪の結果をつぶさに調べてみると、アメリカのメダル数をじわりと押し上げている競技があることに気づく。スノーボードだ。

 正式競技となった98年長野五輪以降のアメリカのスノーボードのメダル獲得数は▽長野=2個▽ソルトレークシティー=5個▽トリノ=7個。この競技のトータル数では世界1位にある。そして、今回もすでに金2、銀1、銅2個を稼ぎ出している。

 アメリカのスノーボーダーたちが、興行的要素の強い大会「Xゲーム」でプロ生活を送っていることはよく知られている。アメリカのスポーツ専門局、ESPNが作った賞金大会だ。夏季Xゲームは95年、冬季Xゲームは97年から始まり、実施されているのはアクロバティックな競技が中心。90年代後半から世界的に拡大した有料放送の流れとこの大会の隆盛は合致する。

 男子ハーフパイプで連覇したショーン・ホワイトは23歳。冬はスノーボード、夏はスケートボードのプロとして年間10億円近い報酬を稼ぎ、自宅には専用のハーフパイプ場まで持っているという。プロボーダーになったのは13歳の時というから、これも驚きだ。

 一般的にイメージされる五輪競技とは別の世界が広がっているようだ。その背後にテレビと興行とスポーツの関係があり、選手たちはショー的な世界で生きている。

 そんなことを考えると、Xゲームにも参加する日本の国母和宏が取った行動と、規律を強調した日本オリンピック委員会の意識の違いも理解できる。選手たちの第一の価値観は、何よりも驚異的な技で観客を魅了することにあるのだろう。集団や組織の論理はそこにはなく、それらの選手は、世界の連帯やフェアプレーを理想とする「オリンピック・ムーブメント」とも別次元で競技活動を送っている。その乖離が、今の五輪を取り巻く実態ではないか。

 さて、気になるのはアメリカの動きだけではない。総メダル数で4位(計9個)と大きく躍進する韓国は、2018年冬季五輪開催を目指して強化を進めている点が大きいのかもしれない。ところが、4年後のソチ五輪を開催するロシアは全くの不振だ。強化がうまく進んでいないのはなぜか、まだ原因は分からない。

 五輪は国家間の戦いの場ではない。しかし、メダル争いの背後に見える各国の事情はいつも興味深く、そこから現代の五輪の姿も見えてくる。閉幕まであと1週間。じっくりと世界の勢力図を観察したいものだ。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件