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vol.491-1(2010年5月21日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

アスリートの「駆け込み寺」が必要だ

 日本オリンピック委員会(JOC)がやっと本腰を入れ始めたといっていいだろう。企業スポーツの休廃部や契約打ち切りで行き場を失った選手たちを、雇用、支援してくれる他企業に紹介する事業をスタートさせるという。景気低迷で企業スポーツの崩壊が目立ち始めたのは90年代後半からだが、これまでJOCをはじめ、競技団体は有効策を打てなかった。それだけに、今後のJOCの動きには注目したいところだ。

 この事業に取り組むJOCのゴールドプラン委員会が企業やクラブにヒアリングしたところ、一つのチームに所属する選手が複数の企業で雇われているケースが増えていることが分かった。こうした例は当然クラブチームに多いのだが、企業チームの中でも関連グループの複数企業で選手の雇用を賄っているところもある。

 JOCでは「ワン・カンパニー、ワン・アスリート」を提唱している。1企業あたり1人の選手でいいから雇用・支援してもらおう、という意味だ。多数の企業に選手のサポートを呼び掛ける一方、選手側の要望も聞き、その仲介を行うという。

 しかし、トップ選手だけが対象になるようなものでは困る。企業スポーツの休廃部で最も困るのは、いわば「準トップ層」の選手たちだ。トップ選手には広告メリットがあるのだから、企業は集まってくるだろう。だが、五輪に出られそうで出られないようなレベル選手たちの環境をどう確保するかは重大なテーマと思われる。JOCには少し頑張ってもらいたいものだ。

 たとえば、団体球技の企業チームが休部になったとする。その場合、メンバー全員の雇用を斡旋するにはかなりの労力を要するはずだ。JOC役員の人脈だけで解消できる問題ではない。事務局の体制も整備して、各競技団体とも連携していかなればならない。そして、もう一つ、動くべき団体がある。日本体育協会だ。

 JOCはトップスポーツの強化、体協は生涯スポーツの振興という役割分担がなされている。だから、企業スポーツはJOC任せでいいのか、といえば、全くそうではない。社会人のスポーツ環境がやせ細っていけば、底辺のスポーツにも跳ね返ってくる。働きながらスポーツも続けられる環境を幅広く整備していくことは、まさに生涯スポーツの振興にもつながる。都道府県体協とも情報をやりとりすれば、地方企業や公務員としても雇用の場は広がる。

 来年4月に就任する体協の次期会長はトヨタ自動車会長で、日本経団連副会長も務めた財界人、張富士夫氏だ。トヨタでは関連会社も含め、企業スポーツのチームを多数持つ。それだけ企業スポーツに理解のある会社の会長であれば、体協会長としても選手の環境整備に実行力を発揮してほしい。不況の出口が見えてこない今、アスリートの「駆け込み寺」を作るには、やはりJOCと体協の協力が不可欠だ。

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