国の今後約10年間のスポーツ政策の方向性を示す「スポーツ立国戦略」の原案が20日、文部科学省から発表された。トップスポーツと地域スポーツの好循環の創出やライフステージ(年齢層)に応じたスポーツ機会の創造など、随分といい話ばかりが並んでいたので、危うく見落とすところだったが、一つ気になる部分があった。「外部有識者」による委員会を設置するというくだりだ。 それは「トップアスリートの強化・研究活動等の拠点構築」というテーマの「国立スポーツ科学センター(JISS)の機能強化」に出てくる。文面はこうなっている。 「独立行政法人日本スポーツ振興センターに外部有識者等からなる委員会を設け、JISSの活動状況の点検・評価を行い、国際競技力向上、生涯スポーツ、産学連携、国際戦略等の必要な機能強化について検討する」 日本スポーツ振興センターは、文科省の外郭団体である。そこに有識者委員会を作って、国際競技力などについてチェックするというのだ。外郭団体の外部有識者委員会という形式だが、実質は国がスポーツの成績を評価・管理するということにならないか。 日本オリンピック委員会(JOC)ではこの政策に対して警戒感が広がっているという。これまで、トップスポーツの強化はJOCに任され、生涯スポーツの振興は日本体育協会に委託されてきた。だから、補助金が出ていたのである。 しかし、政府の事業仕分けにより、JOCや体協に対する補助金は削減された。その代わりに文科省はトップスポーツのための「マルチサポート事業」として、前年度比6倍にあたる約19億円の予算をつけた。民間への委託は減らし、国が直接的にトップスポーツの強化に関与するという意味に映る。 外部有識者を使うのは文科省の手法といってもいいだろう。高校野球の特待生問題では、文科省も関わって有識者会議が作られ、「各学年5人以内」というガイドラインを打ち出した。今は大相撲の賭博問題に対し、また文科省の指導によって外部有識者が改革するといって次々と相撲協会に入り込み、元検察幹部が理事長代行に座っている。そして、このスポーツ立国戦略の原案を読む限り、またも外部有識者か、という印象をぬぐえない。国家権力の直接介入というニュアンスを薄めようとしているのだろうが、そこには国家の意図が透けて読み取れる。 戦略案では、目標として五輪での過去最多以上のメダルを獲得することが掲げられている。夏は2004年アテネの37個、冬は1998年長野の10個だ。さらに入賞者数でも過去最多(夏は08年北京の52、冬は02年ソルトレークシティーの25)以上を目指すという。その目標を達成できない時はどうなるのだろう。外部有識者がJOCの責任を追及すれば、それはJOCの人事にも影響を与えるかも知れない。国家が決めたのではなく、外部有識者という「世論」が決めたのだ、という図式。実に巧妙で恐ろしい。 |