千葉国体に出場した山口県選手団の一部選手に同県内での居住実態がないことが発覚した問題は、日本体育協会の第三者委員会で本格的な調査が始まった。20日に開かれた委員会では、県内の競技団体と「業務委託契約」を結ぶ特別強化選手の存在が明らかになり、このうち約30人が県外に活動拠点を置いていることも分かった。こうした委託契約はこれまでになかった新しい形態ともいえる。
来年に国体を開く山口県のように、開催を控えた都道府県が県外の選手を連れてきて強化する例は、以前から疑問視されてきた。しかし、これまでは県の関係団体や県内企業と「雇用契約」を結び、選手はあくまで競技とは別に仕事をするのが建前だった。
だが、今回は少し違うようだ。まだ契約の詳細は明らかになっていないが、ある県議のブログによると、県側は「トップアスリート育成事業の中で競技水準の向上を図るために、各競技団体が県内選手の育成のために指導・支援する優秀な選手と業務委託契約をする事業に対して県体育協会が補助している。具体的には、今年度予算では約8100万円を計上している」と県議会で答弁し、その対象人数は33人にのぼるという。
いわば県内の選手たちをトップアスリートに育てる指導を、県外も含め「優秀な選手」に委託するという契約のようだ。地元国体での総合優勝を目標に掲げ、県と県体協はそれぞれトップアスリート育成事業を実施している。だが、実際にどれほどの指導実績があったのか、という声も地元では上がっている。そこで議論になるのは、税金をスポーツに投入する上でどんな「業務」が公益性を持つかだ。
県にしてみれば、ジュニアの選手たちを指導してもらう業務にはもちろん公益性があり、さらに県を代表して国体でも活躍してくれれば、県民に活力を与え、県全体のスポーツ振興を促進することにも寄与すると主張するだろう。
ただし、日体協は県内に居住実態があるかどうかを問題視しており、それは指導実態にも関係してくる。県外に住んでいるトップ選手が県内の選手を指導できる機会は少なく、むしろ、今回の契約は国体の成績を上げることが主目的ではないか、という見方が強い。そうであれば、国体の成績向上は選手の「業務」として認められるか、という疑問が生じる。この場合、公益性を考えれば、国体は一過性のものであり、税金をつぎ込んでも短期的な「盛り上げ効果」しか期待できず、県民のスポーツ振興にはつながらない、という論理も成り立つ。
景気低迷が長引き、国体というだけで地元企業が選手を雇用するのは厳しい時代になった。そうして選手の受け入れ先が少なくなったことが今回の「業務委託」の背景にはあるという指摘もある。調査は今後も継続して行われるが、もし行政が強化目的で選手と契約するようになれば、国家がトップアスリートを雇用することさえ、問題はないということになる。国家丸抱えの旧社会主義国のステートアマのようなものだ。そのような仕組みがスポーツ界にとって健全かどうか。選手の競技環境が不安定な時代だからこそ、しっかりと考えなければならない。山口県だけの問題には思えない。
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