中国・広州での第16回アジア大会が今夜、幕を開ける。広州白雲国際空港からバスに乗ると、車窓から見える街はまるで五輪を開催するかのようなムードだ。至るところにアジア大会に関係した飾りやモニュメントが目に飛び込んでくる。中国では北京五輪、上海万博に次ぐビッグイベントであり、香港に近い南部の経済都市、広州は都市の発展ぶりを国内外に示そうと意気込んでいる。
だが、都市の発展とは別に驚くのは、ボランティアの人たちの接遇ぶりだ。競技会場だけで6万人、12月のパラリンピックなどそれ以外も含めると59万人もの「志願者(ボランティア)」が大会運営に携わっているという。彼らの応対ぶりは非常に礼儀正しく、かなりの「トレーニング」を積んできたことが分かる。英語が通じることは少ないが、それでも日本人だと分かると日本語であいさつを投げかけてくる。
ボランティアだけではない。アジア大会開催が決まってから、広州市は市民へのマナー教育を徹底させてきた。市民に配られた「市民礼儀手帳」や「アジア大会観戦マナー指南」には、あいさつや応援の仕方などがこと細かく示されている。
毎日新聞と協力関係にある中国青年報の曹競さんという女性の運動部主任(部長)がこんなことを書いていた(毎日新聞11日付朝刊スポーツ面)。
曹さんは「倉稟(そうりん)実(み)ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る」という故事を使い、「これは、中国が広州アジア大会を開催する意義と似たところがある」とつづっている。
倉稟とは食料を保存する倉庫、いわばコメ蔵のことだ。つまり、生活が豊かになると礼節をわきまえるようになり、繁栄も辱めも知るようになる。思いやりや譲り合い、人間の尊厳を考える。そんな例えだ。
急速に発展してきた中国が、北京五輪に続き、アジア大会でも国力を誇示するだろう、と予想していたが、現地では意外にも中国人の「礼節」を感じる。物質的な豊かさを享受しながら、中国人の精神性にも何か変化が表れてきたのかも知れない。
反日デモは貧富の格差に不満を持つ内陸部の人たちが起こしているとされる。そうした行動が相次ぎ、開幕前に行われたサッカーの日中戦はクローズアップされたが、試合では何もトラブルは起きなかった。確かに厳重な警備態勢が敷かれた点は大きい。だが、それと同時に広州市民に浸透したマナーも背景にあったのではないかと思われる。
「この20年間は中国経済が飛躍的に発展し、中国人の考え方が変容していった20年間でもある」
曹さんの記事の中には、そんなくだりがある。20年前といえば、90年北京アジア大会が開かれた年だ。以来、中国は経済だけでなく、スポーツでも大国になった。そんな今、国威を高揚させるメダル量産だけが目標であっては困る。中国がアジアの人たちとどんな関係を築いていくのか、この大会を通じて実感してみたい。
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