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vol.512-1(2010年12月3日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

日本は「小さくても光る国」に

 広州タワーや閉会式会場から次々と打ち上げられる花火を見ながら、日本でこんな大会を開くことはないだろう、その必要もないだろう、という気にさせられた。中国が199個の金メダルを獲得し、競技面でも運営面でも圧倒的な力を見せつけたアジア大会。予想はしていたが、あらゆる面で日本との温度差は大きく、そればかりかアジアのバランスが崩れていることも実感した。

 アジア・オリンピック評議会(OCA)のアーマド会長の記者会見に出た時のことだ。中国以外の外国人記者からは辛らつな質問が飛んだ。「中国がこれほど大規模な大会をやって、他の国はアジア大会を開こうと思わないのではないか」「中国が各競技で圧勝する中で、他の国はやる気をなくしていくのではないか」。中国の“独走状態”を心配する声が相次いだ。

 アーマド会長は「開催都市は大会のために資金を出すだけではない。それは将来の都市発展につながる」「中国の競技レベルが上がっているだけでなく、韓国や日本などが競い合ってアジア全体のレベルが上がっている」という受け答えをした。確かにインドなど競技力がアップしている国はあるが、アジアの巨人、中国と競い合える国は現状では全く見あたらない。

 日本は「60個以上」という大会前の金メダル目標を途中で「50個超」に下方修正したものの、最終的には48個。当初目標と比較すれば惨敗なのかも知れないが、今回は「負けた」というより、「もう追いつけない」という印象が強い。日本の10倍もの人口を誇る中国が各競技で世界トップレベルの力をつけ、今回は日本の4倍の金メダルを獲得したのである。そんな今、メダル数を日本のスポーツ界の目標に掲げることは、さほど意味をなさないように思える。むしろ、別の方向に発展の舵を切るべきではないのか。

 不振の日本勢の中でサッカーは男女とも初優勝を果たした。男子決勝の翌日会見で、日本サッカー協会の原博実・強化担当技術委員長が、中国人記者から日本の高校サッカーの現状を聞かれる場面があった。

 原委員長は「学校の部活動としての高校サッカーは盛んだし、プロであるJリーグのユースもある。大学サッカーも毎週のように試合をこなしてレベルは高い。日本サッカーのいいところは、いろんな活動の場があるという点です」と答えた。サッカー界は英才教育を目的とした「JFAアカデミー」を福島や熊本に設立し、将来の日本代表を育てようとしている。だが、実際には原委員長が言うように、幅広い底辺から選手が育ってきている。

 サッカーの例は他競技にも応用できるだろう。地域スポーツ、学校スポーツ、企業スポーツ、プロスポーツ、そしてトップスポーツの下部組織。医科学や国際交流の分野でもそうだ。それぞれの足場をしっかりと固めることが、日本スポーツの真の発展につながる。

 各競技団体も国も「メダル」を指標にし過ぎた。競技団体は有能な選手を発掘して鍛えるエリート教育に走り、文部科学省はメダル獲得有望な「ターゲット競技」を指定して手厚く支援する方策を打ち出した。

 だが、そのような手法には徐々に限界が見えつつあるように思える。むしろ、「日本にはあんな素晴らしいスポーツ環境がある」と外国から目標にされるような国を目指すべきではないか。「メダル大国」の位置は中国に任せばいい。たとえばノルウェーなど北欧諸国のように「小さくても光る国」になれば、日本も存在感を示すことはできるはずだ。

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