スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.514-1(2010年12月24日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

競技団体の存在価値が揺らいだ1年

 年末になって厄介な話題が持ち上がった。サッカー日本代表の待遇問題である。日本プロサッカー選手会(藤田俊哉会長)が、日本サッカー協会を相手に勝利給アップや肖像権料の分配を求めている。日本代表で試合に出ることは、もはや「栄誉」というより、「労働」なのだろう。そして、選手側が注文をつけることになった現実に、他のスポーツを含めた共通点が見えてくる。それは「競技団体の弱体化」だ。

 サッカー協会といえば、今や最も大きな収益力を誇る競技団体といえる。テレビ放映権料、スポンサー料、入場料・・・。日本代表の活躍や2002年ワールドカップの日本開催で、サッカー協会は東京・文京区に「JFAハウス」というビルを持つ巨大組織になった。ところが、肝心の選手たちの待遇が昔とほとんど変わっていなかったというのだから、協会は時代の流れを読めていなかったのだろう。

親善試合での日当1万円+勝利給10万円〜20万円という低額に、選手会の記者会見にビデオで参加した本田圭佑(CSKAモスクワ)は「働いた仕事への対価がつり合っていない。今の金額ではモチベーションも上がってこない」とメッセージを寄せた。まさに「仕事」と選手たちは考えている。

 代理人を付け、選手は自らの商業価値と待遇を天秤にかけながら競技をしている。1年を通じて彼らは過密日程に追われており、次々と試合が組まれることに「競技団体がもうけるために、自分たちは利用されているのではないか」と思い始めているようだ。

 今回のような権利の主張は、欧米では当然のように行われ、それがプロスポーツの大きな潮流になっている。他のスポーツでも一流選手にはエージェントが付く時代になった。弁護士のアドバイスを受けながら、彼らは今後、いろんな権利を主張するだろう。

 日本オリンピック委員会(JOC)は04年のアテネ五輪後から選手の肖像権の一括管理をやめ、ひと握りのトップ選手と「シンボルアスリート」の契約を結び、報酬を支払っている。選手の肖像権は、やはり選手側にあるという考えが自然になってきたからだ。選手たちにとって、今は五輪代表に選ばれることは栄誉かも知れないが、いずれ報酬を求める声が出てくる可能性は十分ある。

 今年は競技団体のあり方が問われた。日本相撲協会は野球賭博問題などで大きく揺れ、文部科学省の指導下で、外部有識者を入れた改革を求められた。日本クレー射撃協会や全日本スキー連盟では組織内の内紛が収まらず、こちらも文科省の指導を受けた。JOCや日本体育協会は、政府の事業仕分けで補助金を削減され、その一方で国家のスポーツ予算が増えて国家の直接関与度が高まった。

 競技団体はそのような中で力を失いつつあり、国家の関与の前に「自主」や「自治」の精神が薄れているように映る。また、プロ化した選手たちには競技団体のコントロールが及ばなくなってきた。

 だが、スポーツをどう発展させていくかの青写真を描き、具体策を講じるのは競技団体しかない。リーダーシップを取り戻し、新しい時代の方向性を見いだす来年にしてほしいものだ。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件