日本の国際オリンピック委員会(IOC)委員が103年ぶりに不在となる、というニュースが入ってきたのは6日の夜だった。猪谷千春、岡野俊一郎両委員は今年末で80歳の定年を迎えるが、IOCがロンドンでの理事会で選んだ新委員候補に日本人の名前はなかった。以前から日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長がその後任候補とされてきた。しかし、継承の道筋をつけられず、日本は国際スポーツ界における重要な発言の場を失うことになった。
1月のアジア・サッカー連盟(AFC)の総会では、AFC選出の国際サッカー連盟(FIFA)理事に立候補した日本サッカー協会の田嶋幸三副会長兼専務理事が落選した。このようなことが続き、競技団体の関係者は、国際スポーツ政治の場で日本の地位が低下していることに危機感を抱いている。
だが、一朝一夕でその座を築けるものではない。国際的な「スポーツ人」を養成するのには、五輪の金メダリストを育てるよりも長い時間を要するだろう。語学力だけでなく、国際的な付き合いを積み重ね、信用、信頼を得る関係が求められるからだ。五輪やサッカー・ワールドカップなどの招致に敗れるたび、関係者はその必要性を訴えていた。しかし、世代交代を見据えた国際戦略は乏しかった、と言わざるを得ない。
今、東日本大震災の被災状況が全世界に伝わり、国際スポーツ界も日本支援の動きを見せている。IOC委員やFIFA理事の座を失うことは残念だが、こんな時こそ、日本の競技団体役員は世界とのつながりを強く意識し、感謝と誠意の気持ちを持って関係構築を図ってほしいものだ。
たとえば、サッカーの南米選手権をめぐって、招待されていた日本はJリーグ日程との兼ね合いから出場辞退を申し出た。ところが、開催国のアルゼンチン協会は「日本の復興を応援する大会にしたい」と再考を促したという。有り難い話ではないか。現状では日本代表の派遣に異論も多いというが、ここは知恵を絞って誠意に応える対応をしなければならない。
他競技に目を向けてみても、海外を拠点とする日本のアスリートたちは、ライバルとなる外国の選手から「日本のために何かをしたい」という声を多数聞いているそうだ。JOCや各競技団体は、国内の義援金集めや支援物資輸送に加え、このような外国の動きも拾って被災地へとつなぐ橋渡し役や窓口になれないものか。
スポーツを通じての世界の連帯がオリンピック・ムーブメント(五輪運動)の本来目的だ。国内外を問わず、アスリートたちは被災地への支援へと動き出している。彼らはスポーツが社会に支えられていることを認識し、今こそ何かで貢献しなければならないと考えている。競技団体はそんな選手たちの熱意を支援し、長期にわたる活動を定着させてほしい。日本人初のIOC委員、嘉納治五郎氏が設立した大日本体育協会の発足から100年。今動かなくて、いつ動くのか―。
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