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vol.545-1(2011年12月22日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

日本スポーツの「TPP」的課題

 野球シーズンもオフになって、今年も「米大リーグ挑戦」の話題がスポーツニュースをにぎわしている。しかし、レンジャーズが巨額投資をして日本ハム・ダルビッシュの交渉権を落札したのを除けば、例年とはどうも違った雰囲気を感じる。日本人選手の評価があまりに低いからだ。

 西武・中島裕之内野手の独占交渉権を落札したヤンキースは、入団する前から「補欠」としての獲得を明言した。また、イチロー外野手のいるマリナーズにソフトバンクからのFA移籍を希望する川崎宗則内野手は、マイナー契約になる可能性がある、とシアトルの地元紙が報じている。ブルワーズに落札されたヤクルト・青木宣親外野手については、球団が「練習を見てから入団交渉を始めたい」と言っているという。もし本当にそうであれば、日本の一流選手がずいぶんと軽く扱われたものだ。

 それぞれの挑戦ではあるが、納得しかねるほどの低評価を受けてなお、海を渡る必要があるのかないのか判断は難しい。政財界ではTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に参加するかどうかの議論が続いているが、スポーツ界も「世界的市場」の影響や日本の役割を改めて考える時期に来ているのではないか。そんな課題を突きつけられているように思う。それは野球だけにとどまらない。

 ニュージーランドで行われたラグビーのワールドカップで、日本代表はパワーでまさる外国チームに勝つために、メンバーの3分の1を外国出身選手で固めて対抗しようとした。だが、1勝も挙げられないまま1次リーグ敗退。結局、日本ラグビーに何がもたらされたのか、疑問は残ったままだ。

 韓国で開かれた陸上の世界選手権では、得意としてきたマラソンで日本は男女ともメダルに手が届かなかった。ケニアやエチオピア選手との力の差は明らかで、男子はレース前から目標をメダルではなく、「8位入賞」と掲げたほどだ。驚異的な走りを見せるアフリカ勢との差を埋めることは今後可能か。その答えも見つかっていない。

 日本の選手たちがグローバルな環境で戦うことに疑問を抱く人は少ないだろう。だが、人種や民族の違いを超えてスポーツが世界に広まった結果、日本の実力レベルや評価が相対的に低くなってきた点は否定できない。五輪やワールドカップだけでなく、大リーグや欧州サッカーもグローバル化した戦いの場となり、選手の流出入が絶え間なく続く。では、そんな時代に日本スポーツは、どんな存在価値や方向性を見いだせるだろうか。

 メダル数や国際的な活躍度ばかりを論じるのでなく、もっと広い視野で将来の日本の姿を想像できないものか。単に国内市場にとどまればいいというものではない。東日本大震災が起きた今年、日本人が経験したのは「連帯感」や「絆」だった。スポーツ界にも、被災地支援を通じてトップと草の根、地域社会との結び付きが生まれ、それぞれがスポーツの果たす役割を考えた。そんな価値観を日本に根付かせ、世界にも発信したい。2011年を振り返り、年の終わりにそんな気持ちを強くしている。

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