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vol.552-1(2012年3月14日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

「ドリームス」の解散と英才教育の限界

 女子バレーボールの将来の日本代表を育成しようと、2005年度に大阪府貝塚市に設立された「貝塚ドリームス」が、来年度限りで解散になるという。10年も経たない中での断念だ。ここ数年、バレーだけでなく、他のスポーツも同様のシステムで選手育成を進めてきたが、ここは立ち止まって「英才教育」のあり方を検証するべきではないのか。

 1964年東京五輪の「東洋の魔女」を生んだニチボー貝塚(のちのユニチカ)の体育館を日本バレーボール協会がナショナルトレーニングセンターに指定。ここを拠点に全国から中学生が集められ、選手たちは貝塚市内の中学校に通いながら寮生活を送ってきた。募集段階から日本協会は選手の体格を重視し、本人の足の大きさや保護者の身長、スポーツ歴などを資料に選考。バレーの能力以上に、将来的に体が大きくなる選手を探していた。

 外国の強豪に比べ、日本は体格的に劣る。だから、外国人に対抗できるぐらい大きく育つ選手を早い段階からピックアップするという考え方だった。しかし、その中から日本代表は生まれてこなかった。設立当時、日本協会の幹部からは「競技の普及はこれまでもやってきたが、もはや自然発生的に選手が育ってくる時代ではなくなった。計画的に日本代表を育てなければならない」という話を聞かされた。少子化の時代、他競技との選手の奪い合いも激しく、待っていても世界に通用するアスリートは出てこない。ならば、低年齢から素質のありそうな選手をかき集め、英才教育を積ませるという発想だ。

 バレーだけではない。サッカーでは福島・Jヴィレッジで中高一貫の「JFAアカデミー」を作り、レスリングや卓球、フェンシングは東京・味の素ナショナルトレーニングンターで「JOCエリートアカデミー」に参画している。また、各県でもタレント発掘事業が進められ、能力のある子供をどうやって探すかに躍起になっている。

 だが、バレーの例が教えてくれるのは、人間は計画通りには成長しないということだ。有望な選手を集め、有能なコーチがついたとしても、技術的、体力的、そして人間的に選手がどう育つかは簡単には予想がつかない。原発事故の影響で活動拠点が静岡・御殿場に移転したサッカーのアカデミーでは今春1期生(男女21人)が巣立ったが、Jリーグではなく、大半が大学に進学するという。将来の日本代表を育成するという点からいえば、これも期待通りとは言い難い。一方、他競技ではジュニアの国際大会で活躍する選手が育ってきている例もある。そんな数々の例を持ち寄り、トップアスリートをどう育てていくか、スポーツ界全体で考える必要があるだろう。

 貝塚ドリームス解散の理由としては、日本代表が育たず、費用面も含め事業の成果が出なかったことが挙がっている。だが、まだ人生設計もはっきりしない中学生を集めて夢を持たせ、その事業を途中で投げ出す責任は非常に重い。昔のように自然発生的に選手が育たないと嘆くのはたやすい。しかし、自然発生的に選手が輩出されるシステムを再び築き上げなければ、「促成栽培」にはやはり限界がある。そのことを、競技団体が真摯に議論してほしいものだ。

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