テニスの錦織圭が全仏オープンを欠場するらしい、という一報は、意外にもインターネットを見ていた編集者から知らされた。正式なプレスリリースは流れていないし、通信社が配信した形跡もない。そんな情報がどこから?と不思議に思い、インターネットで検索してみると、すでにテニスファンたちが当たり前のようにツイッターで会話を交わしていた。
「錦織がフェイスブックで全仏欠場を発表」。そんな情報が数時間前から飛び交っていることを知った。すぐさま錦織のフェイスブックを探すと、確かに英語で「パリでプレーできなくて残念です」と書き込んでいる。それを踏まえて同僚記者がマネジメント会社に電話取材をして記事にしたが、通信社の配信も同様に遅かった。ツイッターやフェイスブックというソーシャルメディアの速度にまったく追いついていないことを自覚する一件だった。
さらにソーシャルメディアの威力を痛感する出来事が続いた。24日朝のことだ。
カナダ・ケベックで行われた国際オリンピック委員会(IOC)では2020年夏季五輪の1次選考の結果が発表されることになっていた。日本では午前7時半という時間だ。IOCの公式サイトを見ていたが、予定の時間が過ぎてもこちらは更新されない。ところが、ツイッターではケベックの発表現場にいたと思われるさまざまな人たちが、一斉にツイートし、それがさらにリツイートされて情報が世界的に増幅していく。しかも、IOC自体もメディア担当者が選考結果をつぶやいていた。
今夏のロンドン五輪の報道は、そういう意味でこれまでと異なる情報伝達を意識しなければならないと感じる。
IOCは昨年7月、ロンドン五輪の参加者に向けて、ソーシャルメディア活用のガイドラインを発表した。
ガイドラインは、放送権者やスポンサーの権利を守るためにインターネット上の情報を監視するとしながらも、基本的にはソーシャルメディアがファンとの結び付きを強めるという考えから後押しする立場だ。そして、こう断言している。
「競技者及びその他の資格認定を受けた者がソーシャルメディアに参加し、自身の経験を投稿、ブログ及びツイートすることを積極的に奨励し、支持する」
この春からIOCは「アスリートハブ」というサイトを作り、世界のアスリートのツイッターやフェイスブックを集めて紹介しており、既に1000人以上の五輪出場経験者が登録しているという。選手たちがマスメディアを使わずに発信するという手法が主流になり、ファンとネットを通じて会話するのが当たり前の時代になってきた。
以前はこのような状況を嘆かわしく思っていたが、情報発信の手段が急速に変化していく中で、我々のような旧来型メディアも既成概念を捨てて考えないといけないだろう。どのような情報の伝達が本当にスポーツ界のためになるのか。そしてマスメディアはどんな役割を果たせるのか。伝達の手段だけでなく、情報の内容や質についても一から問い直さなければならない時期に来ている。
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