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vol.651-2(2015年10月15日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―63

 《技術革新(近代化路線)のマイナス防止を怠るな。怠る偸安を許すな》
 この言葉は生前の大島鎌吉の口癖で、「フクシマ」と「新国立建設問題」を取材する私の座右の銘となっている。偸安(とうあん)とは、目先の安楽をむさぼることだ。「新3本の矢」と称して、さらに経済を最優先する安倍政権は、まさに偸安をむさぼっているといってよい。
 振り返ってみょう。2年前の9月初旬だ。IOC総会で「復興五輪」を掲げた安倍晋三首相は20年東京オリンピック・パラリンピック招致プレゼンで、福島原発事故の影響はなく、世界を驚かす素晴らしいスタジアムを建設、理想的なオリンピック運動を推進すると国際公約をし、招致成功に導いた。
 もちろん、原発事故による汚染水問題などのウソについては日本に限らず、海外でも知られていたようだ。知人はドイツの新聞(Berliner Kurier)に掲載された、風刺マンガを転送してきた。
 それには『2020東京オリンピックは、線量の大きさで勝敗が決まります』の惹句が書かれ、開会式に臨んだマスクに防護服姿の選手たちは五輪旗と日章旗だけを手に拍手。聖火ランナーは白く輝くトーチを持っている・・・。
 このマンガを見つつ、私は思う。果たして5年後の大イベントは実現できるのだろうか、と・・・。

 故郷・南相馬に出向いた際の私の生活はいつもと違う。よくいえば健康的だ。朝の5時過ぎには起床し、隣のコンビニで福島民報や福島民友、河北新報を買って読むのだが、ときには驚くこともある。8月14日の河北新報の1面を目にしたときだ。
 《南相馬・小高区 青田ぽつんと試験栽培 汚染に向き合う》
 以上のタイトルが付けられた遠藤孝さんの記事が載っていたからだ。遠藤さんについては6月23日配信の「フクシマ・ルポ58」で紹介している。
 「いやね、河北新報の顔見知りの記者さんにスポーツ・アドバンテージっていうの。あの記事のコピーを渡したら遠藤さんを取材してくれたんだ。まさか1面で書いてくれるとは思わなかった。遠藤さんも喜んでいたよ・・・」
 私に遠藤さんを紹介してくれた渡辺彰さんは、そう説明した。原町高の先輩で、実家近くに住む渡辺さんは私の取材に何かと協力してくれる。
 《除染に支障の恐れ 建設業人手不足に拍車・・・》
 《入札不調 7割超応札なし 作業員不足・・・》
 《復興事業増で人材不足 建設業担い手育成・・・》
 コーヒーを手に新聞を読んでいると、以上のような記事も目立つ。知人の建設業者は嘆いていた。
 「今は復興バブル≠セけど、いつはじけるかわかったもんじゃねえ。それに東京オリンピック関連の競技場建設などが始まったら、作業員たちは賃金の高い東京に取られてしまう。それに資材の奪い合いも激しくなる。復興五輪? ふざけんなだよ・・・」
 最近はこんなタイトルの記事も読んだ。
 《東京五輪 事前合宿・交流事業・国際競技大会 五輪相、知事に支援明言・・・》
 《原町区の北泉海岸 サーフィン聖地&怺 東京五輪追加提案種目で脚光・・・》
 たとえば、被災地の福島県では福島市を始め、いわき市や郡山市など20自治体ほどが「五輪合宿誘致」に手をあげているという。
 しかし、キャンプ地誘致に成功した話は聞こえてこない。「原発禍のフクシマでキャンプをやる。とんでもない」というのが参加国の本音ではないだろうか。3・11の被災地でオリンピック競技が決まっているのは、仙台市でのサッカー1次リーグのみだ・・・。

 起床から1時間が過ぎた。6時20分頃に私は母校・原町第二中に隣接する仮設住宅に行く。
 この場所は昔、高さ約200bを誇ったコンクリート製の円錐型の無線塔があり、テニス部員だった私は周りをぐるぐると仲間とランニング。飽きると寝そべって野イチゴを食べていた。近くには進駐軍が使用していたコンクリート製のテニスコートや朽ち果てた兵舎があり、中に入ると「腰かけ便所」と呼んでいた洋式トイレがあった。
 現在、その場所は広場となり、仮設住宅が建てられ、毎朝6時半からラジオ体操が行われる。集まってきた人たちと一緒にラジオ体操をするのだ。
 私の場合は、朝早くから身体を動かすことにより、昨夜のアルコールが抜け、徐々に筋肉がほぐれるのがわかる。しかし、原発から25`地点の仮設住宅住まいの人たちの心は、果たして癒されるのだろうか。とくにラジオ体操をするお年寄りの後姿を見ながら、ふと私は思ってしまうのだ・・・。

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