ライブドアの子会社に関する証券取引法違反の疑いが急浮上。東京地検による家宅捜索が行われたことに端を発した一連のパニックは東証の機能を麻痺させ、海外のマーケットまで影響をおよぼした。 株価は2日間にわたって全面的に下落。IT系に株取引の対象を集中させていた個人投資家からの売り注文が殺到した。 ライブドアという企業と経営者の堀江貴文氏が一躍有名になったのは、一昨年のパリーグ再編騒動の時だ。以前から若手ITベンチャーの旗手として注目されていたホリエモンだったが、一連のパフォーマンスで、彼は一躍若者のヒーローと化した。ライブドアがプロ野球に興味を示したのは、彼がバファローズ買収の意向を公表する以前だったという。近鉄がバファローズ球団から手を引くオプションを水面下で模索し始めたとき、弁護士を介して興味を示したという話だ。 いつの時点からか堀江社長はスポーツに興味を持つようになったようだ。それもスポーツが好きだからとか、スポーツ事業に魅力を感じるから、といった直接的な動機ではなく、錬金術として利用できると踏んだのかもしれない。近鉄とオリックスの球団合併が承認されると新規参入に名乗りをあげる。審査委員会の公開ヒヤリングの席で堀江社長は資料を示し、新球団を維持発展させるに足る充分な財力があると胸を張った。もし現在嫌疑がかかっている通り、当時の財務諸表が粉飾されていて実際には赤字だったなら、球団保有は可能だとしたライブドアの財務体力はうそだったことになる。 ライブドアはその後ニッポン放送の株式を大量に取得し、フジテレビとの激しい争いを展開したが、結局和解することで一旦落ち着いたかに思えた。 今回の出来事から私はある事件を思い出した。1991年の英国で起こった「マックスウェル事件」である。東欧出身で裸一貫からスタートしたロバート・マックスウェルは、80年代にルパート・マードックと肩をならべる「メディア王」として、批判を浴びながらも次々と新聞社の買収を行っていった。最終的に英国を代表する新聞であるデイリー・ミラーを発行するミラー・グループを所有するに至る。しかし度重なる買収劇の実態は不健全な財務体質のもとで実効されてきたものだったのだ。各方面からの借り入れを維持するために粉飾決算を続け、とうとうキャッシュフローに行き詰ったマックスウェルが穴埋めのために目をつけたのは、なんと従業員のために積み立てられてきた年金基金であった。 彼が不正に引き出した年金資産の合計額は4億5000万ポンド(約900億円)に達した。ところが事件が公になる直前にマックスウェルはカナリー諸島沖で所有する大型ヨットでクルージング中に海に転落して溺死してしまう。事故とも、自殺とも、あるいは殺されたのだとも言われた。真相は結局闇の中である。 マックスウェルはイングランド1部リーグ(当時)のクラブを2チーム所有していた。オックスフォード・ユナイテッドとダービー・カウンティだ。「事件」後、クラブはオーナーが突然消滅するというとんでもない事態に直面するのだが、実はヨーロッパのサッカー関係者からダービー・カウンティのスポンサーに興味がある日本企業を探してくれないか、と持ちかけられたことがある。事件の前、1987〜8年頃だったと思う。1部リーグとはいえ下位のチームだったダービーの知名度は低く、断ったのだが、これは結果的に幸運だった。 スポーツ関連資産に将来価値が見込まれれば、今後もさまざまなマネーゲームの対象になる可能性がある。しかし忘れてはならないのはチームやイベントの資産価値は時価総額だけで判断できるものではなく、人々の関心、つまりは「思い入れ」の総和だということだ。チームが買収され、高額の契約金でさまざまな権利が売買されても、ファンの心理までは金で買えないのである。 |