北朝鮮に2−1で競り勝ったW杯2次予選で、ジーコ監督の選手起用に評論家から「交代が遅い」という批判が起きている。だが、交代が早かったら、楽勝だったか、というと、そうではない。 ジーコ監督は「シリア戦のメンバーで行く。国内組を起用する」と、かねてから明言し、事実、言葉通りの先発になった。朝鮮総連を動員し日本の内情を克明に調べていた、北朝鮮は「これで勝てる」と、小躍りしたに違いない。 彼らは背番号を隠し、2日間、非公開練習で手の内を明かさない、厳戒態勢だったのと比べると、天地の差がある試合前だった。 北朝鮮は前半、日本の出方を探り、後半の猛攻の準備をし、同点から、あわや、逆転まで追いつめた。ジーコは耐え忍んで、国内組を使い続け、高原、中村の順に投入して最後の逆転劇につなげた。 これは、国内組へ「お前たちで頑張るんだ」の激励だった。高原、中村を早めに出せば「なんだ、監督はやはり欧州組を信頼しているのか」という不信感が生まれてしまう。 国内組のレベルアップがなければ、予選6試合はとても戦えない。監督は内心のジレンマと闘いながら、我慢の采配だったのだ。 勝利の運命は4つのキーワードがある。
@ ガムデイ主審が後半3分ものロスタイム(前半は2分12秒)を取ってくれた A 北朝鮮は残り5分で足が止まった B 北朝鮮のGK沈が未熟だった
C 北朝鮮は大黒をノーマークだった。 日本は24選手を当日、6人外して18人の登録メンバーにしたが、外れたのはGK1、DF3、MF2人。だれもが外れる、と思っていた大黒が残っていたのは驚かせた。 北朝鮮のJリーガー、李漢宰(広島)は「日本の選手の特徴、技はみんなに教えたが、大黒は出て来ない、と思い込んでいた」と、後日悔やんだ。 「最後の5分に勝負が来る。そのために大黒を入れた」と、ジーコは言う。大黒も「後1人の交代ワクは僕だ」と信じて飛び出した。 監督との呼吸がピタリ合い、北朝鮮の意表を付く起用は鮮やかに成功した。
北のGKはげんこつでパンチングする以外に防ぐテクニックがない。そのパンチが弱く福西の前に転がったとき、すぐ大黒にパス。彼は反転して左足でシュート。北朝鮮は棒立ちでなすすべもなかった。この小笠原ー福西ー大黒と渡る
流れはよどみなかった。 大黒はボールを受けてから反転して左右両足で自在に打てる特技がある。この一瞬の判断の早さがJリーグでゴール量産の土台になっている。 高原、中村の投入で北朝鮮を追い込み、大黒起用は残り11分。決勝点は残り1分。主審はロスタイム2分58秒で笛を吹いた。 あらゆる条件を整えて最後に勝利をもぎとったジーコ。日本サッカー協会・川淵三郎キャプテンは「ジーコはオレを殺す気か」と言ってから「最後の強運はものすごい。いや、監督には運がなければ」と、うなった。 貴重な勝ち点3。国内組の士気を高め、欧州コンビに緊張感を与え、ジーコは2年かがりでチームの一体化へ第1歩を踏み出した。 |