奇妙な騒ぎだった。NHKが共催するラグビー日本選手権のレフェリーのユニホームに広告が縫いつけられるのを、事前に、主催の日本ラグビーフットボール協会から相談がなかったのは“協定違反”と言い出したのがきっかけだ。予定していた試合の放送時間をナマ(2月12日午後2時〜、総合テレビ)から、深夜(13日午前2時〜、同)の録画に変更する、とした“行動”は、結局、当日キックオフ4時間ほど前に、予定通りの生中継に戻ったが、話はこれだけで終わらない。
NHKは準決勝(2月19日、ナマと録画)、決勝(27日、ナマ)の放送は、問題の広告を外すことを条件として要望、協会はその主張をうけて動いたが不調に終わり、15日午後、協会が協定違反を謝り、NHKも了解、元のサヤに収まった。
テレビ局は、競技場を囲む企業の広告や宣伝に神経質だ。NHKは大会(試合)の主催である、なしに関わらず、事前チェックを行うし、民放各局は番組スポンサーへの影響に気を配る。
だが、多くは、広告(看板)の角度をずらす程度ですみ、放送の変更へもつれこむケースはほとんど無い。 今回のNHKは、事前協定を文書で取り交わしていたにも拘らず、それが守られなかったと斬りこんだが、その理を認めるとしても、広告の主が「朝日新聞」でなければ、こうもいきり立ちはしなかったと思われる。
フィールドの周囲は、数社の広告板が並べられており、レフェリーのユニホームだけを問題とするのはムリがあるのだ。 朝日新聞社とNHKは「番組改編問題」をめぐってにらみ合いの最中、NHKの今回の言い分を、そこへ結びつけられても仕方のない状況ではないか。
日本ラグビーフットボール協会が、NHKに突きつけられた“協定違反”の非を終始認めつづけ、なんとかスポーツファン、ラグビーファンのためにビッグイベントの放送枠確保を、と願った姿勢は、相手が振りあげた拳の収めどころともなった。
今回の一件で、レフェリーのユニホームまで“広告スペース”となっていることに気づき驚いた人も多い。 スポーツ、コマーシャリズム、テレビ。事務手続きのミスの裏側に現代の姿がのぞく。その論争のほうが、はるかに興味深かっただろうに―。 |