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vol.239-1(2005年 2月23日発行)
岡崎 満義/ジャーナリスト

増田明美さんの結婚




杉山 茂/スポーツプロデューサー 
   〜目立ちはじめた日本人選手の薬物違反〜

滝口 隆司/毎日新聞運動部 
   〜揺らぐ巨大イベントの価値〜


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増田明美さんの結婚
岡崎 満義/ジャーナリスト)

 スポーツレポーター、解説者、というより、1980年代、佐々木七恵さんとともに、日本女子マラソンの牽引車として活躍した増田明美さん(41)が、2月8日、電撃結婚した。お相手はファイナンシャル・プランナー井脇祐人さん(40)。うれしいニュースだ。

 1981年(昭和56年)春、当時成田高校3年生だった増田さんを訪ねた。曾根幹子さんと湶(あわら)純江さんと3人で、増田さんのインタビューをした。曾根さんと湶さんは1976年モントリオール五輪の女子走高跳と女子走幅跳の日本代表である。

 増田さんは放課後、学校の裏山につくられた、曲がりくねったアップダウンの激しいクロスカントリー練習コース1300m余を何周も走り、校庭に帰ってくると鉄棒に飛びついて、何10回も懸垂を続けた。そんな小柄な増田さんのスゴイ姿を、私は茫然と見ていた。今は亡きコーチ滝田詔生さんが「軽自動車にF1用のエンジンを搭載したようなものです」と、その頃、走るたびに長距離記録を塗りかえていた増田さんに、目を細めていた。

 曾根さんと湶さんは自分たちの経験にてらして、異口同音に「頑張りすぎて燃えつきないでね。ゆっくりやってね」と親身なアドバイスを、繰り返し、送っていた。私が今も覚えているのは、ライバルでもあり、大の仲良しでもあった、確か樋口葉子さんという同級生のことをうれしそうに話したことだ。

 「葉子ちゃんに800、1500mはどうしても勝てないんです。5000、10000になると、私の方が早いんですけど。葉子ちゃんがいるから、私は走れるんです。葉子ちゃんも私がいるから走れるのかもしれません」―ほほえましい友情コンビである。

 仲良しの二人は、卒業するとそろって川鉄千葉に入社した。滝田コーチも一緒だった。

 滝田コーチは「増田はじっくり育てて、1988年のソウル五輪のマラソンを狙わせます」と話していたが、なんと4年も早く、1984年のロサンゼルス五輪の女子マラソンに、日本代表で参加したのである。コーチの予想を上回る急速な成長ぶりだったのであろう。しかし、結果は惨敗といってもいいものだった。               

 弓を満月の如くひきしぼる前に、待ちきれなくて、思わず矢を放ってしまった、というふうに見えた。仲良しの樋口さんも、限界を感じたのか、いつしか競技をやめていた。ロス五輪以降の増田さんに、かつてのはじけるような走りは戻ってこなかった。孤独を感じた。

 その後、法政大学に入って競技を続ける。別の企業チームに入る。旭化成の宗茂・猛兄弟とオーストラリアで合宿練習をやったりもした。いい成績は残せなくなっていたが、自分で自分を律するように走り始めた増田さんは、次第に明るさを取り戻したように見えた。特に、宗兄弟と合同練習したあと「走ることがこんなに楽しいものかと、初めて知りました」と話したことを今も覚えているのは、私が宗兄弟にたとえば瀬古利彦選手の几帳面な感じとはひと味ちがう、走るフォームや考え方にも自由奔放なものを感じており、増田さんもそれを体で感じたのではないか、と思っていたからだ。スポーツのもつ本質的な自由を知ったのではないか。

 スポーツは型を身につけるべく死ぬほど練習し、それから徐々に型を破っていく。つまり自律し、自由を獲得していくのである。型を破る前に、型に押しつぶされる人の方が多いだろう。上下関係の強い人間的な圧力もある。自律と自由を実感することなく、スポーツからはなれていく人も多いだろう。増田さんはスポーツの自律と自由を実感した、数少ないひとりのように思う。

 そして、今、結婚。晩婚化、未婚化、少子化の今、結婚はスポーツと同様、何よりも自律と自由が核心にあるはずだ。特に女性には、そのように感じられているはずだ。増田さんはもう一つの「自律と自由」を実感しているところだろう。


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