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2006 FIFA ワールドカップドイツアジア地区 最終予選 グループB 日本代表 練習 辻高志


(C)photo kishimoto


2006 FIFA ワールドカップドイツ
アジア地区 最終予選 グループB
日本代表 練習
中田英寿 小笠原満男

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(C)photo kishimoto
vol.254-1(2005年 6月 8日発行)
岡崎 満義/ジャーナリスト

貴ノ花が見せてくれたもの

杉山 茂/スポーツプロデューサー
  〜「携帯スポーツ」時代近づく?〜
滝口 隆司/毎日新聞運動部
  〜大学スポーツは変われるか〜
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貴ノ花が見せてくれたもの
岡崎 満義/ジャーナリスト)
 好きだった力士は、栃錦、柏戸、北の湖、そして貴ノ花だった。“まむし”の栃錦の上手出し投げ、柏戸の電車道寄倒し、ちぎっては投げの北の湖とは、貴ノ花はちょっとちがった。そんな圧倒的な強さの印象はない。サーカス相撲、勝っても負けても紙一重、粘りに粘るハラハラドキドキ相撲、しかし、決して逃げたりかわしたりしない真っ向勝負。そう、いつも紙一重の貴ノ花だった。その紙一重相撲が、どんなにたくさんのファンの心をゆさぶったことだろう。見るものそれぞれに、人生を感じさせてくれた。
 
 横綱にはなれなかったが、横綱以上の名大関として在位50場所、ファンの脳裡には数々の名勝負が刻み込まれた。
 
 昭和56年、現役引退してからも、藤島→二子山と親方人生も順風満帆だった。とくに、息子2人、勝と光司を若乃花、貴乃花の兄弟横綱に育て上げたのは、長い角界の歴史の中でも初めての快挙だった。
 
 元女優の美しい憲子夫人、父を尊敬する2人の息子が大相撲に入ったとき、「これからは親子ではなく、師匠と弟子としてケジメをつける」と宣言、親子の情を封印し、厳しい稽古をさせた。兄弟はそれぞれよく耐えて、出世街道を登りつめた。日本中が羨むような、二子山一家であった。これぞ理想的な日本の家庭、良妻賢母、角界最大の二子山部屋を支えるおかみさん(憲子夫人)、まじめで厳しい父親と親孝行息子、兄弟は大の仲良し…。高度成長とバブル経済を通して、アメリカを抜くほど生活は豊かになったが、心は逆に貧しくなり、家でも社会でも、しつけ、モラルが失われてきた。そんな不安を覚える日本人にとって、二子山一家の存在は、誰の目にもまぶしく映った。

 「衣食足りて礼節失われる」のを当たり前のこととして認めるしかなかった時代に、「衣食足りて礼節を知る」美徳が、今も生きている家として、みんな羨望の目で二子山一家を見つめていたのである。

 さかのぼれば、初代若乃花、そして弟の貴ノ花、若乃花、貴乃花一族の血の中に、私たちは最高のサクセスストーリーを見ていただけではなく、「衣食足りて礼節を知る」よき家族が、やり方次第で今も甦り息づくことを読み取ったのだ。日本人が失いつつある徳目を奇跡のように復活させたところに、貴ノ花から二子山に至る数10年、変わらない人気があったのだと思う。

 二子山一家の変調は、1998年頃から始まった。「貴乃花は誰某に洗脳されている」と親方が発言したあたりから、夫人の不倫疑惑、今も続く兄弟の仲違い、離婚、難病…とつづいた。よき家庭が崩壊する!ファンはハラハラしながら、その家庭劇を見守ったが、ついに円満な復活はかなわなかった。

 私たちは貴乃花の幻想に酔い、そして今、「衣食足りて礼節を知る」家庭を築くことがいかに困難であるか、思い知らされた、ということであろう。栃錦や柏戸を失ったときとはちがう、大きな喪失感―魅力溢れる貴ノ花その人を、そして遂に永続しなかった「衣食足りて礼節を知る」家族像を失うという―を味わうことになった。

 そうであっても、いやそうであればこそ、現役時代の貴ノ花の姿は、ますますなつかしく、光を放ってくる。その土俵を忘れることはない。名大関に稚拙ながら七言絶句を一首捧げたい。

 哭貴ノ花    (下平声一先韻)

痩躯辛苦志逾堅
 (細い体で苦労を重ねたが、志はいよいよかたい)

投擲大兵姿貌妍
 (大男を投げとばす姿、風貌はまことに美しい)

贏得名声存不朽
 (名は大いにあがり、永久に忘れられない)

力争廉潔夢相牽
 (力一杯闘い、清潔な力士は夢の中にあるぞ)

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