全日本大学野球選手権が神宮球場と東京ドームを舞台に始まった。神宮での開幕試合、白鴎大・佛教大戦がまもなく始まろうとした時、かつての名選手がネット裏に現れた。故・秋山登さんとバッテリーを組み、明治大−大洋で活躍した土井淳さんだ。71歳になる土井さんは、第3回大会の優勝メンバーとして、始球式を行うことになっていた。
母校のユニホームを着た土井さんは「ユニホームはいつ以来かなあ。昔はこのメイジの文字にあこがれてねえ」と胸を触りながら、少し照れくさそうに報道陣の質問に答えた。話は、昔と今の大学野球の比較になった。
「ぼくらの後には立教に長嶋(茂雄さん)も入ってきて、あの頃の神宮はいつも超満員だった。球場には常に緊張感が漂っていた。今はお客さんが少なくなったね。スタンドを見るとさみしい限りだ」
土井さんがメンバーとして大学日本一になった第3回大会は、今から51年も前の出来事だ。確かに人気スポーツも当時とは様変わりした。この日の開幕戦は観客4000人。大学野球部の関係者や応援団、プロのスカウトが内野席に陣取るぐらいのものだ。とはいえ、「時代が違う。半世紀前と比べても仕方がない」と言い切っていいものかどうか。
プロ球界は昨年、再編の大きな波に見舞われた。その結果、新球団・楽天の誕生や交流戦の導入といった新たな動きが起き、今年は「改革元年」ともいわれている。 社会人球界では企業チームの撤退が続いたが、今年は欽ちゃん球団こと「茨城ゴールデンゴールズ」や元日本ハムの広瀬哲朗さんが総監督を務める「サウザンリーフ市原」など新たなスタイルのクラブチームが相次いで産声を上げた。元西武の石毛宏典さんは日本初の独立リーグ「四国アイランドリーグ」を旗揚げした。プロを目指す若者を育てたい、という理想に燃えての新リーグ発足だ。 高校球界もプロとの垣根を低くし、積極的に交流を図ろうとしている。7月下旬からは全国11道県で元プロ選手による技術指導講習会が開かれることが決まった。 ところで、大学球界は? と考えてみると、世間を騒がせる不祥事はあっても、スポーツ界に新しい息吹を吹き込む取り組みはほとんど見られない。これは野球だけでなく、大学スポーツ界全体にも言えることだろう。早稲田大が体育会の活動とは別に、市民のスポーツ振興を目的とするNPO法人「早稲田クラブ」を設立したが、それに連動するような動きが見当たらないのも残念なことだ。 大学ほどスポーツの環境に恵まれているところはない。その証拠に、五輪に出場するような社会人のトップ選手の多くが、母校の大学でトレーニングを積むようになってきている。施設もノウハウも人材も豊かな大学は、日本のスポーツ界を再構築するための最も重要な土台になりうる。しかし、大学スポーツが大学の中だけに安住していては発展はない。空席の目立つ神宮のスタンドを見上げながら、そんな気持ちになった。 |