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vol.266-1(2005年 8月31日発行)
岡崎 満義/ジャーナリスト

駒苫の暴力問題を考える

杉山 茂/スポーツプロデューサー
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駒苫の暴力問題を考える
岡崎 満義/ジャーナリスト)

 駒大苫小牧高校の暴力行為(野球部長が1人の選手を2度にわたって殴ったこと)と、そのことを隠蔽して、すみやかに高野連に報告しなかったことで、大騒ぎになった。

 高野連審議委員会で議論された結果、全国優勝はそのまま変わらず、部長は謹慎処分、と決まって、関係者はもとより、多くの高校野球ファンもホッとした。

 この問題で脇坂春夫・高野連会長が「暴力のない高校野球を目指して」という緊急通達を出した。

 「・・・体育会系の部活動では多少の暴力は許されるとか、以前からあった、などというのは誤った考えであり、長い間引きずってきたこうした暴力を許す体質を指導者がどう断ち切っていくかが厳しく問われています。学校教育活動として行われている部活動では生徒間の暴力はもちろんのこと、指導者の暴力もいささかも許されるものではありません。学校教育法では、いかなる暴力も明確に禁止されています」

 「最近生徒間で目立つ暴力行為では、いじめ行為があります。加害者はからかい半分でも、それが徐々にエスカレートして被害者の身体ばかりか、精神面にも重大なダメージを与えている事例があります。“いじめ”はスポーツマンシップに最ももとる行為です」

 ここでは暴力は絶対悪とみなされているのだが、世間では必ずしもそうではない。暴力は相対的に悪、とみている。タテマエとホンネ、である。「愛のムチ」という言葉があるように、その子への教育愛があれば、家庭でも学校でも、大目に見られる暴力がある。子供をわけもなく殴るのは「ただのムチ」だが、子供の正しい成長のために、心ならずも殴るのは「愛のムチ」である、と信じられている。子どもを思うあまり、手が出てしまう熱血先生を、親は心の中で許している。ときには歓迎される。「愛のムチ」か「ただのムチ」かの分かれ目は、加害者と被害者の間に信頼関係があるかどうかだ。

 駒苫の野球部長は、大雪の日に早朝からグラウンドを整地し続けた熱心な指導者だったという。香田監督は「部長は私より年齢が下で、指導経験も浅い。暴力がいけないことも、ことあるごとに話題にした」という。(8月28日付毎日新聞)それでも暴力行為を止められなかった。暴力スレスレの熱血先生は、父母の支持も逆に強いだろうと思う。体を張って指導してくれる、と思えるからだ。

 今回、野球部長は殴った回数を3、4発と言い(後に10回位とあらためた)、選手とその保護者は40発、と証言した。耳の鼓膜が破れたりすれば、傷害事件として告訴されるだろうが、そこまでに到らなければ、「愛のムチ」として、多分、多くの学校で見逃され、許されてきたと思われる。

 20数年前、横浜高校の渡辺監督に取材したとき「父兄の中には正選手になれなくてもいいから、1人前の男になるよう、しっかり気合いを入れてやってほしい、といわれて困ることがある」という悩みを聞いた。「愛のムチ」に寛容な社会にあって、野球部だけは「愛のムチ」もダメ、と割り切れるものだろうか。

 暴力は絶対悪だ、という「緊急通達」だけでは暴力行為はなくならないだろう。AAA選手権で韓国へ行くことになっている高校選抜チームの監督は明徳義塾の監督、コーチは駒苫の監督、もう1人が岡山城東の監督だったが、この監督も同校の部員に対する暴力行為があったとして結局、3人とも辞退した。この事実を見ても、スポーツも含めて教育と暴力の問題は、いかに根が深いか分かる。

 学校も密室の一種である。密室の中で当事者だけのモラル向上運動では、効果はないだろう。本気でやるなら、学校、父母、地域の有識者が独自の第三者的組織「暴力、いじめ、セクハラ委員会」のようなものを設けるのが第1歩ではないか。「愛のムチ」判定委員会でもいい。

 もう一つの問題、隠蔽体質の改善については、私はかなり悲劇的だ。三菱自動車にしろ日本道路公団にしろ、事故隠しや談合は、日本の組織の本質的な性格だと思う。暴力問題も微妙でむずかしいが、隠蔽問題はもっと厄介だと思う。


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