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フォルクスワーゲンオープン荻村杯2005 男子シングルス 岸川聖也
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vol.270-2(2005年 9月30日発行)
佐藤 次郎/スポーツライター

新記録は「レース」の中で


滝口 隆司/毎日新聞運動部
  〜日本スポーツも投機対象となる時代?〜
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新記録は「レース」の中で
佐藤 次郎/スポーツライター)

 女子マラソンの日本記録が更新された。野口みずきがベルリンでマークした2時間19分12秒は、世界歴代3位でもある。日本のトップランナーにとって、もう2時間20分を切るのは当たり前になりつつあるのだ。

 ポーラ・ラドクリフの持つ2時間15分25秒は、いまのところ他の選手に近づくことを許さない大記録だが、これもそう遠くないうちに迫られ、破られていくだろう。女子マラソンの進化はそれこそかつてないハイペースで進んでいる。その勢いはしばらくは止まりそうもない。

 それだけに、今回の記録のつくられ方にはいささかの抵抗を感じる。テレビ中継で見た人の多くがそう思ったはずだ。

 野口には4人ものペースメーカー、ガードランナーがついた。しかも余裕を持って走れる男性選手である。彼らが野口を囲んで、いわばレースから隔離した空間をつくって走りやすい環境を提供したのだ。ペースメーカーの1人は最後の最後まで先導した。記録を出すためにもうひとつのベルリンマラソンが行われたと言ってもいい。

 前回、渋井陽子が同じようにして記録を樹立した時にも書いたことだが、もう一度繰り返しておこう。これはマラソンレースとは違う。タイムトライアルである。

 これはこれでひとつのやり方なのだろう。選手の側が、こうしたチャンスを生かして自分の可能性を引き出そうとするのも理解できる。実際、このところ日本記録は3回続けてベルリンで更新されてきた。

 しかし、マラソン界全体として、この形はどうなのか。これほどまでに分厚い手助けによって記録を樹立することが、果たしてどれだけの共感を得られるだろうか。

 さまざまな形で陸上競技に携わる人々や、熱心に見守るファンたちの大半は、なんらかの形で違和感をおぼえたと思う。マラソンはあくまでレースであるべきだ。

 たくさんのランナーが42キロもの長丁場で体を接してしのぎを削り、それぞれの力を出し切って勝負を決する。そしてその激しい競り合いの中で記録が伸びていく。それがマラソンという競技の本質であり、魅力である。ベルリンのような形もひとつのやり方とはいえ、マラソンの本道からあまりに離れてしまっては魅力は薄れる。記録の数字そのものは素晴らしくとも、見る側の感動はそれには比例しないのではないか。

 世界であれ日本であれ、新記録というものはそれにふさわしい内容のもとで打ち立てられてほしいものだ。野口にはぜひ、次の新記録をレースの激戦の中で樹立してほしい。手厚いアシストなどなくても、十分にそれだけの走りができる選手なのだ。レベルの高い日本女子のライバルたち、さらにラドクリフらと競り合うレースがあれば、今回の記録は間違いなく大幅に更新されるだろう。

 スポーツが時代によって変容していくのは、必ずしも悪いことではない。しかし、常に本質を頭に置いておくことが大事だ。競技の本質がどこにあるのかを忘れると、盛り上げようとして、かえって魅力を失うことにもなる。迷った時は、まず原点に帰ってみればいい。


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