元通産官僚の村上世彰氏が率いる「MACアセットマネジメント」(村上ファンド)が、阪神電鉄の株を大量取得し、筆頭株主となったことが明らかになった。阪神タイガースのセ・リーグ優勝を目前にしたタイミングだっただけに、村上ファンドが「球団経営に関わるのか」「単なる純投資なのか」をめぐって、その動きが注目され始めている。 村上ファンドの狙いは明らかではないが、日本のスポーツもついに金融界のターゲットとなる日が来たとみたい。欧州ではすでに投資会社によるスポーツクラブの買収が行われているからだ。 昨夏のアテネ五輪を前に、ギリシャのサッカー界を取材した。訪れたのはアテネ3大クラブの一つである「AEK」。1924年に設立された歴史のあるクラブだが、ここ数年、他のクラブとは異なる経営形態で運営されているという話を聞いていた。 AEKが英国の投資会社「ENIC」の傘下に入ったのは97年だった。アテネにあるパナシナイコス、オリンピアコスという2つのクラブに比べ、AEKは人気からいえば3番目といえた。そんな中で安定した経営基盤を確立するためには、外資の参入にも抵抗はなかったという。 ENIC社は、AEKだけでなく、イングランドのトッテナム・ホットスパーやイタリアのビチェンツァなど欧州6クラブの株式を買いあさってオーナーとなっていた。いずれも中堅クラブが対象だった。 AEKの幹部はこんな話をした。「投資会社に買われる危うさはもちろん感じるが、悪いこととは思わない。彼らは我々に投資してくれるんだから。ギリシャのサッカー界は発展途上にある。投資会社にすれば値段も安く、魅力的だったんでしょう」 これまでスポーツクラブの財政を支えてきたのは、入場料、スポンサー料、グッズ販売、テレビ放映権料、そしてクラブ会費から得られる収入が主だった。AEKでは放映権料収入や、欧州チャンピオンズリーグに出場した際の分配金が大きな割合を占めていたという。しかし、普及の途上にあるペイTV(有料放送)からの収入は流動的であり、欧州チャンピオンズリーグも成績不振で出場できなければ分配金は得られない。財政が不安定な中で、外国の投資会社に目をつけられたのだ。 投資会社に買われて潤うクラブ財政は、しかし、時として「危うさ」をはらむ。あくまで対象とする株式を安値で買って高値で売り、それを収入とするのが投資会社である。投機的な売買にスポーツクラブの発展やスポーツ界の将来といった理想論が入り込む余地はない。そんな時代の潮流が忍び寄ってきていることに、日本のスポーツ界も気づく時ではないか。 |