公式戦は門外不出―NFL(アメリカ・プロフットボールリーグ)には、このような“掟(おきて)”がある。いや、正確にはあった。 それが破られたのである。10月2日、メキシコシティで、サンフランシスコ・49ers−アリゾナ・カージナルスの今シーズン第4節にあたる1試合が行われたのだ。 1920年に発足したNFLが86年目での国外における「ファーストダウン」である。 会場となったアステカ・スタジアムはメキシコサッカー界の“本殿”、1968年のオリンピックで釜本邦茂らの日本が銅メダルを手にした所でもある。 NFLにしてみれば、史上初の快挙には、それだけの舞台が整えられなければ意味がない。 試合日が近づくにつれ、史上最高の観客数がマークされるのでは、とのニュースがしきりに伝えられた。 これまでの記録は、1994年ヒューストンでのプレシーズンマッチの11万2,376人で、結果的に、メキシコでは10万3,467人の「公式戦最高」にとどまった。外電では2万人の立ち見が出た、と言われ、キャパシティ一杯の観客であったことはうかがえる。 注目されるのは、この成功で、NFLが海外進出にはずみをつけるか、どうかだ。 アメリカンフットボールは、アメリカでは圧倒的な人気を誇るスポーツであり、NFLの門外不出は、フアンの楽しみを裏切らぬものでもあった。 だが80年代ごろから「世界戦略」がのぞきはじめ、ヨーロッパでのリーグ設立や、スポーツ専門テレビへの番組提供を積極化した。 空港のキヨスクに、フランス語やドイツ語のアメリカンフットボール専門誌が並びはじめたのは、80年代後半だろうか。 NBA(アメリカ・プロバスケットボールリーグ)が、92年のバルセロナオリンピックにドリームチームを参加させ、世界を沸かせたのに比べ、アメリカンフットボールは“世界のスポーツ”とは言い難い。 すでにワールドカップも始められ(07年は日本開催)、着々とシナリオは進んでいるかに思われるが、NFL公式戦の興行がアメリカを出て行われるのは、まだサキの話とみていただけに、メキシコの盛況は驚きである。
あのアステカ・スタジアムが、サッカー以外のスポーツに、よく貸し出したものとも思うが、当日キックオフまでの周辺は、日ごろアメリカでの公式戦同よう陽気なパーティーを楽しむ人々であふれ、マリアッチが興を添えた、と伝えられる。 スペイン語の場内アナウンスが流れ、フアンの観戦姿もさまざま、選手たちは空気の薄い高地に戸まどいながらも、ともかく、「公式戦」の魅力は損なわれずにすんだようだ。 この「ファーストダウン」、日本やヨーロッパをエンドゾーンに見立ててのタッチダウンまで突進するのだろうか。 エネルギッシュなアメリカンスポーツの海外展開は、日本国内のスポーツエンタテイメントなど簡単にはね飛ばしてしまう。ちょっと気にもなる―。 |