ルーマニアの14才の少女、ナディア・コマネチが、134cmの身体いっぱいの演技で、段ちがい平行棒と平均台で体操史上初の「10点満点」を連発、世界じゅうを驚ろかせ、絶賛を浴びた時から、30年になろうとしている。 1976年のモントリオール・オリンピックは「コマネチと10点満点の大会」であった。 超人的な演技、神技に贈られるその「10点」が姿を消す。 国際体操連盟(FIG)が、10月10日、アゼルバイジャンでの理事会で、新たな採点システムを導入したことによるものだ。 体操競技の技術的進歩は目ざましい。1964年の東京オリンピックで流行語となった「ウルトラC」(最高難度)は、いまや「スーパーE」と呼ばれる難度までに進化している。 これでは、評価を「10点」に収め切れない。新しい採点法は90年代からしきりに望まれていたのだが、「10点!!」の快い響きとコマネチの姿が重なったものか、反対意見が多くその愛着を押し切るまでには至らなかった。 それが一気に改正となったのは、昨年のアテネ・オリンピックでの混乱に一因がある。審判員の価値点の採点ミスや観衆のブーイングによる点数の変更(=日本オリンピック委員会報告書)がつづき、一部のケースはスポーツ仲裁裁判所へ提訴される騒ぎとなった。 この経過に、国際オリンピック委員会(IOC)のジャック・ロゲ会長(ベルギー)は苦々しい表情を浮かべ、IOCも怒りをかくさなかった。 ロゲ会長は、就任最初のソルトレーク冬季オリンピック(2002年)のフィギュアスケートで、採点をめぐり不愉快な思いをさせられている。 IOCは、ロゲ会長の方針で、オリンピック競技を、4年ごとに採用(実施)の是非を総会にはかる、としている。 FIGも、これ以上、IOCの不興を買うのは得策ではない、と“判断”したのかもしれない。 採点競技は、機械文明のなかで人が人を評価する貴重さがある。その良さを続けるには、理論的なルールの設定がなくてはならない。 今回の改正では、「演技価値点」と「演技実施点」が設けられ、その合計点で順位が決められる。数字だけを取り出せば「10点以上」が多くなりそうだが、これまでの「10点満点」とは標準もニュアンスも大きく異なる。 ウルトラCも、10点満点の代名詞コマネチも、総て“遠く”なった。 それがスポーツというもの、でもあろう―。 <注>新聞などの報道によると「演技価値点」は演技構成の難度による採点で、難度によって0.1から0.6までの6分類、得点となる要素は10種類。
「演技実施点」は10点満点からの減点法式。例えば落下すると0.8引かれる。 来年1月1日から施行される。 |