世界のスポーツ界がこれほど迅速に動くとは思いもしなかった。インド洋で起きた津波の被害に対し、トップアスリートや競技団体が次々と義援金を送っている。その動きは政治の世界よりも早いように見える。
F1レーサーのミヒャエル・シューマッハーが1000万j(約10億円)の寄付を発表したのに続き、日本ではヤンキースの松井秀喜が復興に役立ててほしいと帰省中の石川県根上町で5000万円の小切手を同町長に手渡したことが大きく取り上げられた。
外国の状況を調べてみると、米大リーグ機構も100万jを出し、チーム単位ではヤンキースがレッドソックスとの開幕戦の収益から100万j、ジャイアンツは公式ホームページ上でバリー・ボンズと直接会える権利をオークションにかけ、これを義援金にあてるという。米プロバスケットボール協会(NBA)でも、レーカーズのコービー・ブライアントら7選手が1得点につき1000ドル(約10万4000円)を送ることを決めている。国際オリンピック委員会(IOC)が100万j、国際サッカー連盟(FIFA)とアジアサッカー連盟(AFC)が計300万j。これらは一部に過ぎない。
世界のスポーツ界における社会貢献の意識の高さを、メジャーに身を置く松井も肌で知ったに違いない。その上での行動だろう。大リーグでは社会貢献活動をした選手を表彰する「ロベルト・クレメンテ賞」が、MVPよりも価値が高いと称されるほどだ。
◇ ◇ ◇ ロベルト・クレメンテは60年代から70年代初めにかけてパイレーツで活躍した強肩強打のプエルトリコ出身の外野手だ。3000本安打を達成した1972年末、ニカラグアで大地震が起きると、大晦日に救援物資を積んでプエルトリコを飛び立った。ところが、離陸直後に輸送機が墜落。カリブ海で帰らぬ人となった。38歳だった。
その息子、ロベルト・クレメンテ・ジュニア氏が今回の被災に対して2トンの救援物資と1万8000jの義援金を送るというニュースが伝わってきた。39歳になった彼は父の年齢を超えた今、思いを遂げられなかった父の遺志を引き継ごうとニカラグアにチャリティー物資を届けるプロジェクトを野球関係者らと一緒に進めていた。しかし、計画を実行しようとした昨年末、インド洋で災害が起きた。そこで予定を急きょ変更したのだ。AP通信はジュニア氏の言葉をこう伝えている。
「私は本当に困っている人々を助けるために、ニカラグア行きを思いとどまった。父はいつも『もし良い行いをする機会があるのなら生かすべきだ。それをしなければ、人生を無駄にしていることになる』と話していたものです」
スポーツが社会という基盤の上に成り立っている。外国ではその意識が日本以上に強いのかも知れない。日本のスポーツ界は「地域密着」の必要性を叫び続けているが、地元だけではなく、「社会との共生」「社会への還元」といった視点を持ってもいい。資金力のあるチームや高額年俸の選手でなくても、できることはある。スポーツが社会にできる「行い」を考える機会でもある。 |