ラグビーの早大、日本代表の元監督で、現在は日本ラグビー協会の会長代行でもある早大人間科学部の日比野弘教授が、70歳の定年退職を前に最終講義を行った。講義のテーマは「早稲田ラグビー50年」。一般学生だけでなく、かつてのラグビー仲間やチームメートが集まり、1400席ある大隈講堂は立ち見が出るほどの盛況となった。
日比野さんは1954年に入学してからの半世紀をエピソードで振り返りながら、「早稲田ラグビーの哲学」を披露した。それは「なぜ勝たねばならないか」という、根本的な問いかけだった。
@ラグビーは理論的スポーツである。 Aこうすれば勝てるという理論を実践できるようにするのが練習である。 B負けたということは、相手ができたことを早稲田ができなかったことの証明である。
これを日比野さんは「勝利の三段論法」と説明し、「早稲田は勝利を志向する集団としての伝統を受け継いできた。その信念は今も継承されている」と話した。単に「ベストを尽くせばいいじゃないか」という考えでは、責任を持った集団は築けない、という思想だ。
この話に、私は日比野さんの恩師である故大西鐡之介・元早大監督の残した「勝負至上主義」という言葉を思い出した。 ◇ ◇ ◇
昨年11月、「大西鐡之介ノート『荒ぶる魂』早稲田ラグビーの神髄」という本が講談社から発売された。教授として講義した内容を録音していた学生がおり、そのテープが死後約10年を経て書き起こされたものだ。 講義録には「スポーツとは知性的行動」と「スポーツとはケンカ」というくだりが出てくる。頭を使いながら、ケンカをする。そこにスポーツ本来の姿が垣間見える。 「遊戯とスポーツの違いは何なのか。それは技術なんです。なんぼヘボでも技術を追求すると面白くなる」 「技術がなんぼ進歩しても、技術は何のために使うんだという話。それは競争なんだ、勝負だ。勝負があるから、スポーツは面白いんです」 “ケンカ”をするためには「闘争の倫理」が必要だと大西さんは説く。「ルール、マナーがあり、スポーツマンシップがあり、フェアプレーの精神が注入される。その中で人間は闘争の倫理を身につけていく」 第2次世界大戦を経験した大西さんは「真珠湾は、まさにだまし討ちや。宣戦布告もせずに、日本海軍の全力をあげて、国力をあげてだまし討ちをしとる。だから、アメリカは怒りよった。日本をやっつけないかんということで、戦争になった」と言っている。闘争の倫理が欠如した日本の指導者に対する、大西さんの厳しい評価だ。 ◇ ◇ ◇ 勝つために相手を研究し、戦術を編み出し、練習を繰り返す。そして相手と戦う中で、人間はスポーツから何かを得る。「早稲田ラグビー50年」の講義を聴きながら、そんな本質に触れた気がした。 |