タレントの萩本欽一さん率いる“欽ちゃん球団”こと「茨城ゴールデンゴールズ」が、全日本クラブ野球選手権の茨城県予選を突破し、北関東大会への出場を決めた。
常陸大宮市での第1戦を取材に行った。駅からタクシーに乗って約10分、球場に近づくとすでに周辺駐車場は満杯だ。球場前には露店が建ち並び、試合の1時間以上前から内野席は立錐の余地もない。観衆は6000人。クラブ選手権の県予選にも関わらず、警察官や市役所の職員が動員され、サブグラウンドでウォーミングアップを終えた選手には子どもたちがサインを求めて群がっている。
試合前の関係者入口では、萩本欽一監督の即席インタビューが開かれていた。「きょうはグラウンドでマイクを持たせてもらえないので残念だなあ」。オープン戦では、試合中もワイヤレスマイクを片手にファンサービスをしていた。しかし、この日は公式戦。当然そんなパフォーマンスが認められないと思っていたら、試合直前に許可が出た。
県野球連盟の役員が「あまり時間はないですが、試合前だけですよ」とマイクを欽ちゃんに手渡した。ノック中からマイクパフォーマンスが始まり、その一言一言に観客からは大きな笑いが沸き起こる。お年寄りや子どもたちも「欽ちゃーん」と声を掛け、球場は微笑ましいムードに包まれた。
「公式戦なのに、なんと不謹慎な」と目くじらを立ててはいけない。このパフォーマンスにこそ、今のスポーツ界へのヒントが隠されているように思える。
米独立リーグでプレーした元日本ハムの今関勝さんが「向こうの独立リーグは、球場が遊園地のような雰囲気です。日本は野球ファンが観戦に来るが、アメリカは野球ファン以外の人も集めようと努力しているんです」と話してくれたことがある。球場わきにバーベキューコーナーを設けたり、犬がボールボーイ役を務めたり、様々な工夫を凝らしながらファンを喜ばせる。それが地域に根づいた「ボールパーク」の文化なのだろう。
ゴールデンゴールズは地元・常総学院高出身の左腕・仁平の好投もあって8−3で快勝。第2戦も9−5で逆転勝利を飾った。野球のレベルは決して低くはない。女子選手として注目された片岡は「大学受験で練習不足」という理由でスコアラーとなったが、元オリックスの副島、藤本や大学野球で慣らした経験者が、鹿取、鈴木康友、羽生田という元プロコーチの指導を受けており、クラブチームとしてはまずまずの実力だ。
欽ちゃんが唯一不満だったのは、ゲームセット直後、スタンドの声援に応えて愛嬌を振りまいていたら、審判に「早く整列して」と注意されたことだ。
「まずはお客さんを大事にしなきゃあ。舞台人はお客さんに作られる。野球の選手も観客に育てられるんだよ。野球は楽しいし、球場に来ることも楽しい」
アマチュアスポーツに「お客さん」という意識は低かったに違いない。スポーツはすることも見ることも面白い。欽ちゃんはその一体感を強調したかったのだろう。企業スポーツが低迷し、クラブスポーツに活路が求められている。 今年は野球の四国独立リーグや、男子バスケットのプロ「bjリーグ」も始まる。その成功のカギは、人を引き付ける「創意工夫」以外にない。地方球場を満席にする欽ちゃん球団を見ていると、そんな気がしてくる。 |