サッカーのワールドカップ欧州予選で98年大会の覇者、フランスが苦戦している。欧州4組でスイス、イスラエル、アイルランド、キプロス、フェロー諸島と戦うフランスは、現在4勝4引き分け。勝ち点はスイスと同じ16ながら得失点差で2位に甘んじている。 この結果を浦和レッズのブッフバルト監督が毎日新聞のコラムで分析していた。ジダン(レアル・マドリード)、アンリ(アーセナル)ら98年フランス大会優勝時のメンバーも30歳前後になったが、若い選手との世代交代がうまく進んでいない。そうした現状を指摘しながら、ブッフバルト監督はフランスの選手育成について触れた。 「フランスが育成を怠っていたわけではない。ドイツもフランスに学んでいたし、今でもその手法は世界レベルにある。欧州の強国にいえることは、素晴らしい選手がブラジルのようにそろっているわけではない、ということだ。ブラジルは代表が2〜3チームできるほど選手がそろっている。欧州はどのポジションにも次の選手がいるわけではない」 この一節を読んで、私は「やはり!」とひざを叩いた。 ブッフバルト監督が指摘するように、フランスの選手育成法は世界の見本となってきた。それはサッカーだけではない。1960年のローマ五輪で金メダルゼロに終わったフランスは、当時のシャルル・ドゴール大統領が国家を挙げてのスポーツ強化に乗り出した。ドゴール死去後の75年、パリ郊外に「INSEP」というナショナルトレーニングセンターが設立され、多くのスポーツが手厚い国家支援のもとで強化を進めてきた。サッカーでW杯を初制覇した98年の主力も、そうしたシステムの中で育成された。早い時期から才能のある子どもが発掘され、強化施設で集中的に鍛える方式だ。 日本のスポーツ界も今、まさにその方向へ向かって舵を切り始めている。東京・西が丘に建設されるナショナルトレセンでは、エリート・スクールの創設が計画され、サッカーでも福島県にあるJヴィレッジで中高一貫教育が来年から始まる。バレーボールでは今年から大阪府貝塚市にある日本バレーボール協会のナショナルトレセンに才能のある女子中学生を集め、将来の日本代表を育成する英才教育がスタートした。 私はこのエリート教育の思想に危うさを感じている。才能ある選手を発掘し、集中強化をしていけば、確かに世界トップレベルの成績を挙げることは可能かも知れない。しかし、エリート教育ばかりが重視され、草の根を含めたスポーツ界全体の基盤整備がおざなりにされれば、それは遠い将来、タレントを発掘したくてもできない状況を生むのではないか。サッカー・フランス代表の苦戦は、そんな現象の一端が表面化したものに思えてならない。 ブラジルにはストリートサッカーに象徴されるように、子どもたちが自然にサッカーに親しみ、競い合う環境が伝統的に備わっている。代表チームを2つも3つも編成できるぐらいの「懐の深さ」。一朝一夕にはできない、ブラジル社会とサッカーの歴史がそこに反映されている。 |