2011年ラグビー・ワールドカップの開催地選定で、日本招致委員会の森喜朗会長(前首相)が「極めて厳しい状況」と国内メディアを前に現況を報告した。17日にアイルランド・ダブリンで開かれる国際ラグビー機構(IRB)の理事会で投票が行われるが、決定を前に半ば諦めたかのような発言でもある。 日本のアピールポイントは1点に尽きる。「アジア初の開催でラグビーを世界に普及できる」だ。英タイムズ紙の先月22日付社説でも、世界的なラグビー振興のために日本開催が好ましいと評されている。ライバルである南アフリカ、ニュージーランド(NZ)に比べても、日本の招致理由は明確であり、タテマエとして筋が通っているだろう。 しかし、投票を左右する理事たちの「本音」は別のところにあるのかも知れない。タイムズ紙は前述の社説を掲載した8日後、「南ア有利」の情勢を示すIRBの秘密文書を入手したことを明らかにした。 記事は「南アが最も強く、NZを落選に追いやるだろう。ラグビーを世界に広めることがカギとなる日本には、多くの人が不公平と感じる結果が与えられる」などと切り出し、南アを「金庫」と称している。つまり収益が見込めるというわけだ。 秘密文書では南アでの開催により「テレビ放映権収入の最大化が図れる」と記述されているという。その根拠が時差だ。南アとヨーロッパの時差は、日本、NZよりも極めて短い。夏時間でロンドンとの時差は東京が8時間、オークランドが12時間に対し、ヨハネスブルグは1時間しかない。 となると、日本、NZに比べて南アでの試合をヨーロッパのゴールデンタイムに放送することは容易であり、放映権はヨーロッパのテレビ局に高値で売れる。南アは治安の面などで不安がささやかれているが、1995年には第3回大会が行われており、運営能力もある程度は想定できる。2010年にサッカーのW杯が開催される点も大きい。一方、NZはこの時期にオールブラックスが英国遠征をして最後のアピールに躍起だが、南アほど下馬評は高くない様子だ。 日本ならジャパン・マネーに期待できる、という見方もある。しかし、世界のラグビーよりも国内のラグビーに関心がある国だ。観客動員の面で読めない部分は多い。スポンサーの動きが鈍いのもそのせいだろう。行政側の支援態勢も整ってはいない。政府の強力なサポートを受ける南ア、NZに比べ、IRBは日本側が示した収益の保証額が低いことも指摘しているという。 IRBが収益面を優先すれば、日本はやはり「極めて厳しい状況」になるだろう。森前首相が招致委の会長を務め、小泉純一郎首相がプレゼンテーションでビデオ出演するというが、政治家の顔が効果を発揮するようには思えない。 投票権を持つ理事は、立候補国選出を除く19人。第1回投票で1カ国が落ち、2カ国による決戦投票となる手続きだ。各国理事はもうかる大会を望むのか。それともグローバリゼーションの方向性を支持するのか。 |