9月18日に長嶋茂雄さんと瀧安治さん(元巨人コーチ)を交えて、1時間のトークショーをした。 その準備のため、長嶋さんのHPを覗いたついでに、桑田真澄投手の「LIFE IS ART」というHPを開いてみた。今年1月から月1回くらいの割合で、日記風に書いているものだが、これがすこぶる面白かった。 5月17日の項は、広島遠征に行った時、美術館に足を運んで「ポール・シャニック展」を見た感想を書いている。 「芸術はすごいよ!毎日時間に追われっぱなしで、慌ただしいが、時間の許す限り、何かしらの芸術に触れていたいと思う。ピッチングも芸術だと思うし、まさしく、人生も芸術だな。『Life
is art』そんな気持ちを込めて、このタイトルにしたんだ」と、HPタイトルの説明もしている。そして、ユニセフのために小学1年生の息子と一緒に描いた「平和」という魚の絵も載せている。 9月19日の項。前夜、桑田はホームランを打っている。 「久しぶりのホームラン、嬉しかったよ。僕のバッティングの鍵は、キャッチボールにあるんだ。グラブにも、バットにも『芯』というものがあって、グラブの芯で捕球すれば、いい音が鳴るし、ボールの勢いをなくして送球し易くなる。だから、キャッチボールやゴロを捕るときも、常に芯で捕れるように集中して捕球練習しているんだ」 「打席に入ったときは、グラブをバットに持ち替えているだけなんだよ。ピッチャーが投げてくるボールをバットの芯で捕る。それだけなんだ。『捕れるボールは打てる!』だね」 「今シーズン、一度も打撃練習をしたことはないけど、何の不安もないよ。だって、いつもキャッチボールやゴロを捕っているから、その感覚で、来たボールをバットの芯で捕ればいいだけでしょ。『バットでキャッチボール』イメージが合う人は一度トライしてみて下さい」 8月18日のHPは、何と「フェルマーの最終定理」という見出しだった。ピエール・ド・フェルマーは17世紀フランスの数学者で、数論の創始者。その「最終定理」は350年以上、誰も説明できなかったが、ついにイギリス人数学者アンドリュー・ワイルズが解いた、と彼は書いている。 そして、「数学の証明が終わり、定理が示されたら、それは何年たっても一切変わることがないと思う。野球の技術や理論も、数学と同じように変わることがないと信じていた。しかし、95年に右肘の手術をし、リハビリをしている時に、今までのような投げ方をすると、肘にすごく負担がかかり、痛かったので、少しずつ、今までの理論に疑問を持ち始めたんだ」 「『フェルマーの最終定理』に挑戦したワイズから勇気をもらい、自分の目標に向かって日々努力している。その『目標』とは、『どれだけ体がさばけるか』『どのようにして体を捌くか』だ」 「確かに、捻り、ため、うねりを使って、投げたり打ったりするのも、力を出す一つの方法なんだけど、他にも何か方法があるのではないかなと考えていた頃、武術と出会い、捻らない、タメない、うねらないで、力を出す方法をみつけたんだ。これまでの野球界の理論と真っ向から対立するものばかりだが、野球界の理論が物理的なら、体の使い方も研究する余地があると思うので、今までの経験を活かし、新しいものを生みだしたい。それが証明できれば、『投げられるのであれば、打てるし、捕れる』と定理できる。いいボールが投げられる人は、打てて当然、捕るのも上手いということ。打撃は良いが、守備が下手というのは成り立たないし、守備は良いけど、打てないというのも当てはまらないということだ。もしそうなら、体の使い方が出来ていないということになる」 いかにも研究熱心で理論派・桑田投手の面目躍如たる言葉だ。「シンプルでエレガントで体に負担の少ない方法を研究している」。彼は続けて、「何百、何千の魚の群れが、一瞬にして同時に方向転換する光景、分かるかな?自分の体も、そのように使えるようになりたいと思う」というそのイメージは、まことに素晴らしい。 これまでいろいろな野球選手をインタビューしてきたが、面白くて明快な話が出来るのは、江川、落合、工藤、それに桑田投手だった。 HPを読むかぎり、彼はまだまだ進化しつづけているようだ。 【参考】読売ジャイアンツ公式ウェブサイト → http://giants.yomiuri.co.jp/
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