4月10日、広島市民球場の広島−ヤクルト戦に“ボール運搬犬”が登場した。テレビニュースで見ると、オスのゴールデンレトリーバー、名前はミッキーくんという利口そうな犬が、ボールの入ったカゴを口にくわえ、球審のところへ運んでいく。 朝日新聞によれば、笠原球審は「連れて帰りたいぐらいかわいかった。試合に支障は全くないので、今後もどんどんやればいい」とのこと。犬好きの野球ファンにはうれしいサービスだろう。 しかし、私は「?」である。いや、反対である。たしかに時代はいかに女性を味方につけるか、ファンにするかに躍起になっている。女性にソッポを向かれては、プロスポーツは成り立たない。そしてそのキーワードはどうやら「かわいい」である。今年の始球式にも、人気タレントの上戸彩、フィギュアスケートの安藤美姫が登場した。テレビ・スポーツの宿命ともいえる“かわいい芸能化路線”が、何かといえばすぐ頭をもたげてくる。ボール運搬犬の発想も、その路線につながっているような気がする。 では、チアリーダーはどうなのか、という人もいるかもしれない。それはイニングとイニングの間の応援ショーである。ゲームの継続中に“かわいい”犬がボールを運ぶのとはわけが違う。 スポーツは野球であれ何であれ、ゲームそのものを“かわいい”感じにしてはならないと思う。“かわいい”スポーツマン、スポーツウーマンが出てくるのは一向にかまわない。しかし、ゲームそのものをかわいくする行為はやめた方がいい。 その昔、正岡子規が「いまやかの三つのベースに人みちてそぞろに胸のうちさわぐかな」と歌っているが、野球はまさにそういうものだ。野球の醍醐味は、見ている人間の「胸のうちさわぐ」か、どうかにある。“かわいい”とは別の次元の価値である NYヤンキースの始球式で、往年の名捕手ヨギ・ベラさんがマウンドに上がり、山なりのボールを投げた。年取ったヨギ・ベラの姿を見て、私は大いに満足した。多くのファンや選手の尊敬のまなざしの中で、あっさりと、そういう始球式が行われた。そういうサービスがあれば充分である。 |