2004年度・第15回ミズノスポーツライター賞の優秀賞2作品の表彰式が、4月18日、新高輪プリンスホテルで開かれた。
蓮見明美さんの「アラビアン・ホースに乗って―ふたりで挑んだ遥かなるテヴィス」(洋泉社刊)と、毎日新聞東京本社運動部五輪取材班の「五輪の歩んだ道―巨大イベントの108年」の2篇。
「アラビアン・ホースに乗って」は、題名だけではどんな内容なのか、ちょっと想像もつかないが、これは「テヴィス・カップ・ライド」、正式には「ウェスタン・ステーツ・100マイルズ・ワン・デイ・ライド」という、長距離耐久乗馬レースに出場した蓮見清一さんの体験を、夫人の明美さんが記録した、いわば夫婦共同製作といったおもむきの作品である。
アメリカ西部シエラネバダ山脈の険しい山岳地帯と半砂漠の荒野の道100マイルを、24時間以内に馬で駆け抜けるという、想像もつかない過酷な乗馬耐久レースだ。
蓮見清一さんはもともとスポーツ好きだったが、乗馬は初めて。そんなズブの素人がある日、NHKテレビでこの耐久レースを見て、還暦を1年後にひかえた清一さんは「これだ!」とチャレンジを決心したというから驚く。無謀とも思える還暦記念スポーツだ。
乗馬クラブで1から乗馬技術を習い、アメリカから馬を買い入れて、ヒマさえあれば軽井沢で練習する。100マイルレースに出場するには資格がいる。アメリカに渡って25マイル、50マイルのレースをいくつかこなさなければならない。その間に落馬して骨折したり、苦心惨憺の末に挑戦、みごとに完走する。それでも疲れ切って、本番前に「死ぬんじゃないか」と意気消沈したり、どこかクタッとした心身の状態が見えるところに、かえって中高年の味がある。スポーツは若者の独占物ではない。
私はこの本を読むまで、こんなにスゴいスポーツがあるとは知らなかったから、ページをめくるのがもどかしいほど、面白く読めた。
感心したのは、長距離耐久乗馬レースは単にタイムの競争ではなく、何ヶ所かのチェックポイントでは獣医によって必ず馬の健康状態がチェックされ、一定のレベルを保っていなければその馬のレースはストップされるという点だ。まさに「人馬一体」のよい状態を、いかに持続させるかというヒューマンな感じの強いスポーツであることが、読んでいて実に気持ちがいい。
コーチや家族、地元のボランティアたちのサポートがあってこそのスポーツだと分かる。過酷さとアットホームな感じが混然一体となって、ふしぎな魅力のあるスポーツになっている。こんなスポーツを悠々と楽しむアメリカ人の生活ぶりを見ると、アメリカのスポーツの懐の深さを感じる。
そんなスポーツはお金がある人だけのものだ、とやっかみ半分で批判する人もありそうだが、わたしは文句なく蓮見夫妻はスゴい、と思う。長距離耐久レースというアメリカの自然と深く結びついた、未知の、ふしぎなスポーツに、還暦1年前に夫婦で挑戦したのは快挙だと思う。夫の挑戦ぶりを妻がキチンと記録し、作品としてまとめたことで、さらに評価が上った。こういう夫婦を生んだ日本の戦後は、捨てたものではない。高齢化社会もこわがることはない、と勇気を与えてくれる作品であった。 |