中国での反日感情が高まる中、スポーツ界にも嫌な空気が漂い始めてきた。08年に開かれる北京五輪について、両国政治家の発言が目立ってきたからだ。
17日の日曜日、仙台市を訪れた自民党の安倍晋三幹事長代理は街頭演説で「冷静な対応をして、やるべきことをやっていただかなければ国際社会での信用を失墜する。(中国は)オリンピックや万博をやろうとしているが、この状況が続けば果たしてできるのか」と語った。
自民党山崎派の関谷勝嗣会長代行も派閥の総会で「中国政府は国際ルールを守っておらず、これでオリンピックが開催できるのか。中国と試合をした相手国側に(危害が加えられるなど)事件となる可能性が、今の状況ならある」と非難したという。
こうした動きに呼応して、こんどは中国の唐家セン国務委員(前外相)が「北京五輪を日本がボイコットするという話があると聞いた。どうなっているのか」と中国を訪問中の町村信孝外相に質した。町村外相は「日本は北京五輪を支援したい意欲を持っている」と否定したが、両国間に芽生えた不信感は簡単に拭い去れそうにない。
もし日本政府が北京五輪不参加の方針を打ち出したら、日本のスポーツ界はどう対処するのか。3年後の開催とはいえ、そんな心配が頭をよぎる。
ここ数年、スポーツ界の政治傾斜は強まっている。文部科学省の「ニッポン復活プロジェクト」による強化費の増額とアテネ五輪の活躍、小泉純一郎首相が指示したナショナルトレーニングセンターの早期建設、森喜朗・前首相の日本体育協会会長就任……と政治絡みの話題が多い。強化費の削減をちらつかせる政府の圧力に屈し、不参加となった80年モスクワ五輪は遠い過去の話ではない。
ニューヨークで起きた01年の「9・11テロ」の直後にも、各競技団体がこぞって「選手の安全」を理由に海外遠征を中止した。 しかし、この時、日本オリンピック委員会(JOC)の理事会は「よほど危険な状況でない限り、選手を派遣すべきだ。責任問題になるからやめようではなく、事前に十分な調整をして積極的に参加することが望ましい」と競技団体の消極姿勢をけん制した。席上、国際オリンピック委員会(IOC)の猪谷千春委員が「国際スポーツ界はテロに屈しないという姿勢が基本だ。そういうジェスチャーをJOCも示さなければならない」と語ったのを思い出す。
今回も選手の安全面だけに話を終わらせるのではなく、スポーツ界の「信念」を示すべき時ではないか。スポーツによって国際理解を深め、世界平和に貢献するという「オリンピック・ムーブメント」の原点を思い返し、隣国との関係をスポーツ界としても考える機会だ。 |