たとえば栃若、長嶋と村山、王と江夏、もっと古くは古橋と橋爪…何年にもわたるよきライバルの激しいつばぜり合いは、スポーツ観戦の大きな楽しみの一つだ。
数年前から新しいライバルの競い合いを発見して、その成り行きを楽しみに見ている。女子走り幅跳びの花岡麻帆(Office24)と池田久美子(スズキ)の2人である。
6月5日に行われた陸上世界選手権の代表選考会をかねた第89回日本選手権でも、この2人は対決、すばらしい大接戦を演じた。6回の試技で、ベスト記録が2人とも6m69、2番目の記録も6m61で同じ、3番目の記録が池田6m60、花岡6m57、わずか3cmの差で、池田の優勝が決まった。日本選手権で、3番目の記録で優勝が決まったことは、跳躍種目ではこの40年間なかった、と朝日新聞は伝えている。
それほど2人の力は拮抗している。しかも、池田、花岡のライバルは、その体つきが対照的なところが、何ともいえず面白い。花岡は細身、余分なものをスパッとそぎ落とした鋭角的な体。たとえば切れ味のいい刀で斜めに断ち切った青竹の切り口のみずみずしさ、と言ったらいいか。41年前、東京オリンピックのとき、同じ女子走り幅跳びの日本代表に、細いが、バネのかたまりのような岸本幸子という選手がいた。私の高校のクラスメートだったが、花岡はどこかこの岸本に似ていて、つい親しみを感じる。
一方の池田は色白で大柄、花岡にくらべれば、ずっとふっくらした体つきで、東北の丸っこい素朴で可憐なこけし人形を連想してしまう。のびのびとおおらかな感じが実にいい。
テレビ画面からは2人の精神面までは分からない。見たところ2人とも負けず嫌い、闘志むき出し、勝負にかける意気込みは、全身からオーラのように発散されている。甲乙つけようもない。対照的な2人の間に、目に見えぬ火花が飛び散っているのを感じる。
ライバルといっても、格闘技やボールゲームでは直接対決するわけだが、走り幅跳びはちょっと違う。ライバルの一方が跳ぶとき、片方はそれを見ているだけだ。トラック競技とも違う。一斉にスタートするわけではない。フィールド競技の特徴だが、ライバルの1人が「動」のとき、片方は「静」にある。交互に6回「動」と「静」の時間がおとずれるのだ。
この「静」の時間に、ライバルたちは何を考えているのだろうか。「動」の時間にいっしょに没入できない幸と不幸がある、と思ったりする。燃えながら醒めていなければならないのではないか。試技の1回ごとに、どう相手を意識しているのか。訊けば、いや、ただただ自分のことだけに集中している、というだろう。それでも、心にさざ波が立つのではないか。どんな競技にもまして、精神面の安定に心を砕かなければならないだろう。
対照的な体つきの2人が、いつまでも力を拮抗させて、よきライバルとして競技を続けてほしいと心から願う。残念ながら、この2人をまだグラウンドでじかに見たことがない。何とかして、2人の対決をスタンドから見たいものだ。来年の全日本選手権あたりで実現させたい。それにしても、テレビに映る国立競技場のスタンドに、観客が少ないことに驚く。少なすぎる。日本選手権という看板が泣く。みんな、もっと見に行かなくっちゃ、と思う。 |