名古屋場所は朝青龍が2敗したことで、終盤もつれて優勝争いは面白かったが、怪我人が続出したのは興ざめだった。ほんとうはサポーターや絆創膏、包帯姿も見たくないのだが、裸でぶつかりあう格闘技だから仕方がないかもしれない。公傷制度もなくなったことでもあり、力士の健康管理は最新のスポーツ医学をもとに、本格的に取り組むべき課題であろう。体重管理とトレーニング法、食事、つまりは力士の生活全体を分析、改善していく必要があるのではないか。そういえば、昔、横綱・輪島はよく走っていた。 今場所の楽しみのひとつは、片山の美しい四股であった。先場所あたりから話題になりはじめたが、テレビも意識して片山の四股をうつしてくれた。 土俵に上がって水をつけるときに1回、中央で相手と最初にまみえるときに1回、都合2回、高々と四股を踏む。足がまっすぐよく伸びる。爪先が垂直に天を向く。フィギュアスケートのビールマンスピン、鉄棒の大車輪に匹敵する美しさだと思う。 のびのび成長した1本の木が、凛として立ち、微風にサワサワ葉をふるわせているような風景を連想する。 これだけ足がよく伸び、真上に上がる四股は初めて見るような気がする。相撲の世界に入門すると、怪我を防ぐためにも、まず股割りというきびしい柔軟体操を課せられる。下半身の関節、とくに股関節をやわらかくするのだ。大男たちが両足を180度ひろげてペタンと坐り、上半身を地面にすりつける姿にはびっくりする。ハワイ出身の高見山(東関親方)がこの股割りで大粒の涙を流したことは伝説になっている。 四股は相撲の基本中の基本だから、誰もが毎日踏む。それでも、片山ほど美しい四股を踏む力士はいない。片山は毎日、よほど時間をかけて、意識して四股を踏んでいるのだろう。 土俵上のパフォーマンスもさまざまだ。かつての水戸泉の掌いっぱい山盛りシオ撒き(今は北桜)、高見盛のロボット風気合の入れ方、朝青龍のにらみ・・・。もっとも、相撲は勝ってなんぼの世界だから、強くないとパフォーマンスは影がうすくなる。 今場所、片山は前半はまずまずの勝星を上げたが、後半は大崩れして7連敗、結局4勝11敗で終った。敗けがこみはじめると、折角の美しい四股も感激度が落ちてくる。あれだけ美しい四股が踏めるのだから、もう少し下半身の粘りがあってもよさそうなものを、とついつい愚痴っぽくなる。われながら見る側は勝手なものだ、と思う。 片山が強くなって、幕内上位に進出してくれば、美しい四股はさらに注目を集めるだろう。力強く美しい相撲を、水をつけるところから勝負がつくまで、土俵上でくりひろげてほしい、と願っている。 |