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第53回全日本剣道選手権大会 3回戦 米屋勇一×内村良一
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vol.275-2(2005年11月 4日発行)
佐藤 次郎/スポーツライター

彼女の泳ぎを見てほしい

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彼女の泳ぎを見てほしい
佐藤 次郎/スポーツライター)

 その扱いには少なからず驚いた。新聞でいえば一段のベタ記事がほとんどで、それさえ見当たらないところも少なくなかった。テレビなどで報じられたという話も聞かない。成田真由美選手のパラリンピック最優秀女子選手賞受賞のニュースである。これはどうみてもおかしいのではないか。

 国際パラリンピック委員会(IPC)がこのほど制定した賞である。前回のパラリンピックでもっとも傑出していた男女選手、チームなどを選出するもので、こうした形で選手が表彰されるのは初めてだという。いわば全競技を通じての世界MVPということで、しかも歴史に残る初代の表彰選手でもあるのだ。障害者スポーツの世界だけでなく、日本スポーツ界全体にとっても、きわめて価値のあることと言っていい。

 それがこの報じられようである。おそらく一般にはほとんど伝わっていないだろう。大半のメディアはこの受賞の価値に気づかなかったということだ。

 パラリンピックや障害者スポーツが、まだ世間的にさほどなじみがないという状況はある。だが、この数年、少なくともパラリンピックはある程度知られるようになってきた。NHKがかなりの放映時間を割いたことによって、その内容がある程度伝わったからだ。レベルの高いパフォーマンスもあり、また、一般の競技者をしのぐほどの気迫や執念、意欲もパラリンピアンたちにあるのを、テレビ映像がまざまざと示したのである。

 実際、パラリンピックに代表される障害者スポーツは、年々その厚みと奥行きを増している。ことに競技としての側面が強くなってきたのが目立っている。それにはまたドーピング問題などのマイナスも付随してきているのだが、全体として大きな前進を果たしてきたのは間違いない。障害者スポーツの層が厚くなり、パフォーマンスのレベルも上がってきたのは、すなわち、人間の持つ可能性の一面をそれだけ広げてきたということだからだ。

 成田真由美はトップ・パラリンピアンの一人として、その流れの先頭に立ってきた。病気のために13歳で下半身の自由を失い、車いすの生活となったが、23歳でおぼえた水泳によってスポーツの道に力をそそぐようになり、アトランタ、シドニー、アテネのパラリンピックの競泳で計15個の金メダルを獲得してきた。その成績もさることながら、彼女をこの世界で際立った存在としたのは、競技者としての意識と行動をもって水泳に取り組んだことだ。楽しみとしての水泳にとどまらず、一般のスイミングクラブで専任コーチの本格的な指導を受けることによって、とかくリハビリの延長のようにしかみられなかった障害者スポーツに、競技の道を切り開いたのである。

 車いすを使っている身で一般のスイミングクラブに通い、競泳の練習を続けるのは簡単なことではない。しかも彼女は、体調的にも心臓などにさまざまな問題を持っている。練習中にしばしば意識を失うほどなのだ。それらの大きな障壁を、強靭な意志に支えられた猛烈な努力によってすべて乗り越えてきたのである。競技の意識を持って日々練習に取り組んでいる選手は日本にも少なくないが、さまざまな面からして、成田真由美は世界のパラリンピック運動を代表するアスリートの一人といえるだろう。そして彼女はついに初代の女子MVPに選ばれたというわけだ。

 それほどの快挙が、小さなベタ記事でしか伝えられなかった。実におかしなことだ。ただ、それでこの受賞の価値が変わるわけではない。日本の障害者スポーツがいっそう盛んになり、多くの注目がそこに集まるようになった時、成田真由美の快挙はあらためて輝くことになるだろう。


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