8月末から長良川国際レガッタコース(岐阜県海津市)で開かれていた第35回世界ボート選手権は、アジアで初とあって8日間の大会はなかなかの盛り上り、終盤2日は7000人を超える観客を集め沸いた。 大会第3日(8月30日)から3日間で10回「世界最高記録」のアナウンスが流れ、日本人選手も加わっていたことから、関心を高めもしたようだ。 うかつにも、ボート競技に「世界記録」が設定されていることを知らなかった。メディア席に配られるレース結果表の上段に「ワールドベストタイム」の欄があり、競泳や陸上競技のようにそのタイムが印刷されている。そういう時代になったのか、と無知を恥じていたが、結果的には運営側のミスリードと分かり、この大会で更新された記録も、別の理由がからんで総て取り消されてしまった。珍しい話だ。 「ワールドレコード」とせず「ワールドベストタイム」と表記していた微妙さに気づけば、それなりの扱いですんだろうが「世界最高」と煽られれば、はずむ。 さらに、国際ボート連盟(FISA)は上流の雨がコースに流れこみ、波が立ち、追い風となった3日間の状況を重視、2日後「雨の影響で川の流れが速く、そのためにマークされたタイム」として、今回のベストタイムを認めないと発表、今後は「流水の基準を設ける」と付け加えた。 ボート競技は水の流れ、風向きでタイムが左右される。 いつのオリンピックだったろうか。日本オリンピック委員会(JOC)は、ボート代表の条件として基準タイムを設け、それを破らなければ派遣を認めない、としたことがある。 選考レース直前、風向きが変わり、スタートとフィニッシュを入れ替える“奥の手”が使われ、テレビ中継のスタッフは大あわてしたものだ。 それほど条件の影響が大きいスポーツ。“参考”や“基準”ならともかく「記録」として公認するのは、あまり意味があるとは思えない。 競技者にとっては目標でも、観客は総て着順の競漕が魅力。 “数字全盛”“数字偏重”“数字至上”ともいえる昨今のスポーツ界の風潮に乗ることなく、ボート競技は、たっぷりその面白さを味わせてくれた。 「世界記録」は長良川に流されてよかったのだ―。 |