甲子園の前半戦を取材し、東京に戻ってきた。連日の熱戦が続く中、今も気に掛かっていることがある。中山成彬・文部科学大臣の開会式での発言だ。大会直前に明徳義塾が出場を辞退する異例の事態があった。このことに触れ、野球留学の問題をあいさつの中で取り上げた。以下、中山大臣のウェブサイトに掲載されたあいさつの一部だ。 「大会直前になって出場校が辞退するという不祥事が発生したことは、大変残念なことでありました。私たちはスポーツを通してフェアプレー精神を学ぶわけであります。これは社会に出てもきちっとルールを守る、弱い人に対する思いやりの気持ちを養うことでもあります。勝つために努力することは大事なことであり、尊いことでありますが、勝つために手段を選ばないということは厳に慎まなければなりません」 興味深い話はこの後に来る。 「この大会は国民的な行事として発展してまいりましたが、今、現実には全国から選手を集めるような、そういった風潮もあるわけでございますが、やはり高校野球の原点に立ち返れば、それぞれの郷土で生まれ育ったその地区の高校の代表として、郷土の代表として出場することが、地元の皆さん方が心を合わせて応援できるわけであり、この大会が国民的行事として一層発展することになるのではないかと考えております。高校野球関係者の前向きな検討を是非お願い申し上げます」 文部行政のトップが、野球留学を規制せよ、と日本高野連に命じているかのようにも受け取れる異例のあいさつだった。事実、高野連は今年6月から野球留学に関する検討委員会を発足させ、各都道府県の高野連に野球留学の実態調査をするよう求めている。調査は、県外出身者の数や中学生がその高校を志望した理由、勧誘行為の有無、中退者の実態などを調べるもので9月末までの報告を依頼しているという。 文科大臣は、全国から選手を集めて甲子園を目指すのはフェアではない、と言いたいだけなのか。それとも、明徳義塾のような問題が起きるのは野球留学が背景にあると言いたいのか。あいさつ文を読み返しても、そこが理解しにくい。 野球留学がアンフェアで、高校野球には郷土色が大事、という論理は、就学の自由を考えると説得力を持ちにくい。ただ、不祥事と野球留学という点で考えると、議論や調査の余地があるかも知れない。過去の例を見ても、確かに野球部の寮で暴力や喫煙等の問題が起きているケースは非常に多い。密室的な集団生活。「規範」や「規律」を求める伝統的な上下関係。問題が起きても、隠蔽される体質・・・。 しかし、だからといって野球留学を規制せよ、という話にはしてはならないと私は思う。15歳にして親元を離れるのは、青年が自立していく成長過程において決して悪いことではない。集団生活で貴重な体験も多く積める。問題とするのなら、それは野球留学ではなく、寮生活のあり方だろう。寮に大人の責任者はいても、実際には野球部員だけの運営になっているところは多い。それが時として「無法地帯」となり、不祥事に発展する。明徳義塾のような悪夢を繰り返さないために、高野連には寮生活の実態に本格的にメスを入れてもらいたいものだ。 |