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vol.265-1(2005年 8月24日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部

114`速球の始球式と女子野球


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114`速球の始球式と女子野球
滝口 隆司/毎日新聞運動部)

 東京ドームのブルペンを訪ねてみると、小気味いい音が捕手のミットを叩いている。都市対抗野球大会の開幕戦に登場する堺市・NOMOベースボールクラブのベンチ裏だ。投げているのは、NOMOクラブの投手ではない。始球式を行う女子の投手だった。

 中島梨紗さん(18)は桜美林大学に通う1年生。大学の男子準硬式野球部に所属しながら、「侍」という女子硬式クラブチームに所属している。中島さんのボールを受けている田村知佳さん(25)は、神奈川・横浜隼人高校の体育教員。男子の硬式クラブチーム、サウザンリーフ市原でプレーしている。ともに女子硬式野球の日本代表選手だ。

 始球式で中島さんは114`の速球をNOMOクラブの1番打者に投げ込んだ。「ちょっと緊張したけれど、思い切り投げました」と声を弾ませる中島さんの横で、田村さんは女子野球の現状と自らに課せられた使命感をしっかりとした口調で説明してくれた。

 「女子野球はまだ知名度もないし、競技人口も少ない。でも、私たちが『女子でもここまでやれるんだ』というのを見せたい。自分たちが、やはり頑張らないといけないんですよ」

 女子野球の歴史は意外に古い。日本女子野球協会によれば、1917年に愛媛の今治高等女学校に野球部が創設されている。その2年後には名古屋で「高等女学校野球大会」が開催され、戦後まもなくの51年には女子プロ4球団による日本女子野球連盟が結成された。それも20年後には自然消滅したが、80年代後半には全国大学女子軟式野球連盟、97年には硬式の高校選手権も始まり、再び息を吹き返してきた。また、男子の明大や東大にも女子の投手が入部し、東京六大学野球の話題となったことも記憶に新しい。

 01年からは世界大会(カナダ・トロントで第1回大会)も始まり、昨年は8カ国が出場して富山県の魚津市で第4回大会が開かれた。日本女子野球協会も02年に発足。そして、今月初めには静岡で「第1回全日本女子硬式野球選手権大会」が開かれ、16チームが参加。鹿児島の神村学園高等部が優勝した。

 消滅と発足を繰り返した過去の歴史を振り返れば、組織の基盤が脆弱なのは仕方ない。しかし、今夏の全国大会が全日本野球会議の普及振興委員会が主催する「ベースボール・フェスティバルin静岡」というイベントの一環で行われたことも意義のあることだろう。女子野球が自立していくためには、何よりも野球界全体のバックアップが必要だ。

 「女子の野球が発展するには時間がかかります。でも、しっかり盛り上げていきたいですね」と中島さんは言う。時間がかかるのは誰もがわかっている。男子の野球と女子のソフトボールが2012年ロンドン五輪から除外されたように、女子野球にも決してフォローの風が吹いているわけではない。それでも、時間をかけながら地道に草の根を広げていくしかない。


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