五輪後には、どの国でも体制の見直しが行われる。コーチ陣を一新する国も多い。今年も、ノルウェーだけでなく、オーストリア、フィンランド、アメリカ、日本などでコーチがガラリと変わった。 コヨンコスキにふられたオーストリアも4月末までヘッドコーチが決まらなかったが、ソルトレークでメダルなしに終わった日本では誰も引き受け手がなく、なんと夏の試合を間近に控えた7月中旬まで新体制が決まらなかった。 笠谷幸生部長、八木弘和チーフコーチのもとで新ナショナルチームが実質的にスタートしたのは、10月の白馬合宿だった。2回の選抜合宿での記録会の結果、選ばれたW杯遠征チームは、船木、葛西、宮平、原田、山田のソルトレーク代表5人に、吉岡和也と社会人1年生の元複合選手、高野鉄平を加えた7人。 八木チーフコーチは、06年のトリノ五輪で世界に追いつき、07年に札幌で開催する世界選手権でトップになることを目標にしている。八木構想では、ジュニアとシニアの間にユースチームを作り、スムースに移行できるようにする、また、各県連と密接な連絡をとり、有望選手に早い内からナショナルチームと同じコンセプトでの指導をする、そのためのスタンダードを早急に作る、ことにしている。 そして迎えたシーズン開幕。開幕2連戦は、いずれも7人中4人が予選通過し、最高位は船木の10位だった。八木コーチはこれを「7人中4人の予選通過は昨季より上。試合での順位は妥当な結果」と受け止めている。 また、「ヨーロッパ各国と比べて、日本だけが何か考え違いをしていることはない。日本の指導も他国の指導も同じだと確信した」とも言う。 技術面では、空中で体をストレートにせず、腹をへこませて空気をためるよう指導している。スキーの角度によって、飛行曲線から1m下あたりに地面からの反発を受けてスキーが落ちないようにする層ができるようだ、空力の専門家の協力を得て分析したい、とも思っている。 今季の目標は2月の世界選手権で団体戦の銅メダル。トリノ五輪までに上から3人抜けて、下から4人上がるのが理想。 若手選手には、早く自分のジャンプの「色」を作ってもらいたい。そのためには、長所を生かすことも大事だが、理論的にこうするのが一番いいということを教えて行きたいと考えている。 昨季の日本の最大の問題は、ナショナルチームと各企業のコミュニケーション不足から生ずる不協和音だった。選手、コーチ、役員全員が懲りたはずだ。そして、全員が腹をくくったはずだ。 まったくゼロにして、新たなスタートを切ったノルウェーは、半年で枠組をすっかり作り上げた。日本は、企業が育て、ナショナルチームは選手を預かって転戦して結果を出し、企業の広告宣伝となる、という枠組は以前と変わらない。 そこに「指導する」八木ナショナルチームが誕生した。企業との連絡を密にし、無用な軋轢を生まないようにしなければならない。選手がナショナルチームで過ごすのは、年間80日から多くて100日。残りの200日以上、選手は企業で育てられる。 1シーズンかけて、多方面から現状を把握することが第一歩。そして、冷静に戦略を立て、コーチ全員が納得するまで話し合いを続ける。企業チームとナショナルチームが同じコンセプトで強化育成できるようになれば、選手が混乱することはなくなり、大きなプラスになる。 一朝一夕にはいかない。今季は、自分の「色」を確立しているベテランたちの奮起を期待して、過渡期(となるべき)シーズンをうまく過ごしてもらいたい。 所属の土屋ホームが迎えた年若いフィンランド人コーチの指導で、去年の大スランプから脱出した葛西が良さそうだ。不利な追い風にたたられた第2戦以外、第4戦まですべて10位前後と安定している。 昨季大きく成長した山田は、10月末の白馬合宿で足首を捻挫。足首に自信が持てず、自分のジャンプができないでいるうちにシーズンが始まり、結果が出ないことでますます自信をなくし、ジャンプも悪くなる悪循環に陥っている。そろそろ吹っ切って欲しい頃だ。 ノルウェーの大変身に比べると地味な日本の歩みに、外国メディアは「落胆していないか?」「大丈夫なのか?」と訊いてくる。 日本の目標は、トリノとその翌年の札幌世界選手権。今季早急に結果を出さなければならないわけではない。どっしり構えて、動き始めた新体制が成功に向かって進んでいくよう、意見交換をしながら協力すればいい。苦しみぬいてせっかく作った体制を、来年も、そして再来年も作り変えるようなことにならぬよう、腹を据えて取り組むことが必要だ。 ノルウェーの本格的な崩壊が始まったのは、長野五輪の翌年、つまり自国開催の五輪から5年目のことだった。五輪に向けての強化の「負」が顕著に出始めたのが、その頃だったということだろう。日本はより早く急降下した。 これ以上落ちなければ、今はそれでいい。 |